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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十六章 聖魔のはじまり(後編)
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人生を変える


屋敷の前庭でマーウライと話した後。

頃合いを見計らって声をかけてきたアテンに促され、ライラは館へ戻った。

もちろんマーウライも一緒に館へ入った。


館にマーウライが入った瞬間、黄色い歓声が上がった。

ライラの館に仕える女性の使用人たちが、マーウライに乙女の表情を向けたのだ。

マーウライは決して美男ではない。

しかし容姿以上の気品を溢れさせていた。

その気品は、カウナで別れた時以上だ。

女性を虜にするには、十分すぎるだろう。



「こんな男のなにがいいんだか」



ブラムが呆れ顔を見せる。

マーウライが苦笑いして、ブラムの背をとんと叩いた。



「それよりも応接室へ行きましょう」



黄色い歓声を遮るようにして、ライラはマーウライの袖を引っ張った。



「そのようにしましょう」


「アテン、香茶を淹れてくれますか」


「すぐにご用意しますよ」


「お願いね。ほら、ブラム。マーウライを応接室へ案内して」


「るせえ。分かってら」



ブラムが喚き、先を歩いていく。

ライラとマーウライは、並んでブラムの後を付いていった。


応接室に着いてしばらく、三人は他愛ない話をした。

主にカウナでの思い出話だったが、ライラが去った後の話もマーウライが聞かせてくれた。

マーウライは未だ、結婚していないという。

縁談は多数あったが、すべて断っているらしい。



「……後継ぎってやつが必要なんじゃねえのか、領主にはよ」


「別に私の子である必要はない。親戚だっていいだろう?」


「欲がねえな。お前の目に前に座ってる女も見習ってほしいぜ」


「唐突な悪口、やめてくれます? でも……そう、まだ結婚していないのですね」



なぜか、少しだけホッとした。

いや、ホッとしてはダメか。

マーウライとはもう、何の関係もないのだから。



「気楽な身の上ですので、こうして友人にも会えるというわけです」



マーウライがブラムを指差して言った。

ブラムがマーウライを追い払うような仕草をした。

友人、とは思っていないのだろう。



「ブラムはマーウライに何の用があったのです?」


「分かんねえのか」


「まあ、分かるけど」


「じゃあ、聞くんじゃねえ」



ブラムがそっぽを向いた。

面倒臭い男だなとライラも心の内でそっぽを向いた。

そんなふたりの様子を見て、マーウライが小さく笑った。

「仲睦まじいですね」と言ってきたので、ライラは即時否定した。



「はは。いや、しかし。ライラ様のことは案じておりましたので。このような機会を得られて光栄です」


「……もう、なにも気にすることはないですよ」


「そうですか?」


「先ほどはアレコレと言ってしまいましたけど、もう、波風立てるつもりはないのです」


「波風を立てようとしているのは、ライラ様ではありません」


「後か、先かは、関係ないでしょう?」



ライラは断ずるように言った。

マーウライがかすかに目を細めた。

強く言いすぎたかなと、ライラは不安になった。

するとその緊張をほぐすように、ペノがライラの肩の上で小さく跳ねた。

もちろん、喋りだしはしない。

さすがにマーウライの前では喋らないようにしようと思ってくれたらしい。


わずかに空気が和らぐ。

ライラが次の言葉を探している最中、マーウライが口を開いた。



「しかし、ライラ様。私はあなたが望むように準備を整えています」



マーウライの声が、和らいだ空気の中にひびいた。

凛と、鈴が鳴ったようだった。

ブラムが同じことを言えば、きっと心が搔き乱されただろう。


ああ、でも。

今ここで、さっき前庭で話したことは言わないでほしいなと、ライラは眉根を寄せた。

その表情を見て、マーウライが小さく微笑んだ。

もちろん言わないと、かすかに指先を動かしてくれた。



「……どんな準備ですか」



マーウライの指先の合図に安心して、ライラはこぼすように言った。

するとマーウライの表情がほんの少しだけ硬くなった。



「それは、ライラ様がお覚悟を決めていただかなければ話せません」


「そんなに面倒なこと、ですか」


「私の人生を変えます」


「そ、そんなこと頼めませんよ!」


「もちろん、私にも利があります。ご安心ください」


「そう、なのですか……?」


「はい。しかし、たとえ利がなくても、私は必ずあなたを支えます」



マーウライがにこりと微笑んだ。

そうして、ブラムを手のひらで指した。



「ブラムもそうでしょう。アテンさんやグナイさんも、きっとあなたを支えます。これまでもそうだったのではありませんか?」


「……今回は事情が違います」


「存じております。それでも皆さんは、ライラ様を支えようとしていませんでしたか」



その言葉と同時に、ブラムがなにか合図をした。

すると応接室の扉が開いた。

アテンが、新しく淹れた紅茶を持ってきた。

その後ろから、グナイが入ってきた。

グナイの後ろには、アルサファと、エイドナ、レッサがいた。

幾人かの使用人たちも、続々と応接室に入ってきた。



「……だけど」



応接室に流れ込んできた彼らを見て、ライラは口篭もった。

支えると言われても、困る。

その結果、ソウカンに殺されるかもしれないのだから。

ライラが彼らに助けてと言うのは、死ねと言っているも同じだ。



「ライラ様の想いは分かりました」



沈んでいくライラを察して、マーウライの声が静かに鳴った。



「しかし、彼らの想いは知っていますか」


「……知っています」


「では、耳を塞いでいらっしゃるのですか」


「そうするべきです」


「あなたの想いは伝えて、そうさせているのに」


「そ、それは……!」


「ライラ様、心の内の目を、もっと低くして、彼らをご覧ください」



そう言ったマーウライが、ブラムと、アテンたちに視線を向けた。

促されるまま、ライラは視線を移す。


ブラムが、強い目で、ライラを見ていた。

出会ったころの、まだ小さかったブラムと同じ目だった。

その目のまま、ライラを見ている。

語らずとも、なにを言いたいのか、すべて解る。

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