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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十六章 聖魔のはじまり(前編)
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何がしたい?


「エルナ様……いえ、ライラ様」



怒鳴ったライラの傍に、マーウライが寄った。

跪き、頭を垂れた。



「ライラ様。ほんの少しだけ、私と二人で話をさせていただいても構いませんか」


「……ふたりで?」


「ええ」



マーウライが頷く。

するとやはり、分かっていたようにブラムとアテンたちが、ライラから離れていった。

とはいえ、見えなくなるほどではない。

声が聞こえない程度に離れただけだ。


ブラムたちが離れたのを見て、マーウライが口を開いた。



「ブラムには言えないこともあるでしょう」


「……だって」


「代わりに私が聞きましょう、ライラ様」


「マーウライが? でも、そうしたらブラムに言うでしょう?」


「言うかもしれないし、言わないかも。ライラ様の気持ちを私だけのものにするために」


「じゃあ、言わないで」


「善処します」


「約束して」


「ええ。言わないように善処します」



マーウライが微笑んだ。


ああ。

絶対に、ブラムに言うだろうな。

間違いなくそうするだろうと、ライラは思った。


でも、なぜか。

それでもいいような気がした。

マーウライなら、ブラムの暴走を止めてくれるだろう。

これほど簡単に、頑なになっていた私の心を溶かしたのだ。

考え無しのブラムなんて、マーウライにかかれば、いちころだ。



「……私は、ブラムを死なせたくない」



ぽつりと、言葉が落ちた。

その声は、マーウライには聞こえないほど、小さなものだった。

しかしマーウライは、小さく頷いた。



「それからは? 他になにがしたいですか?」


「……どこか、別の場所へ行きたい」


「どこに?」


「……どこでも。のんびり暮らせるなら、どこでもいいです。そのために、こうして旅をしてきたのですから」


「長い旅でしたね」


「……そうです。本当は……旅したいわけじゃない。嫌いじゃないけど。色んなものが見れるし、楽しいこともあるけど」


「ライラ様は、馬車に酔われますからね」


「……そうなのです。それなのに、ブラムったら、なにも分かってない」


「ブラムはちゃんと分かっていると思いますよ」


「……分かってないわ。あいつ、私のことすぐに馬鹿って言うんだから」


「これほど素敵な淑女に」


「……そこまでじゃない、ですけど。でも……私だって、本当は、色々考えてるんだから」


「ええ。もちろん。ライラ様が望まれるままに生きていけるように」


「……そう、そのために……でも、どうしようもないの」


「どうにか、できるとしたら?」


「どうにか、できる……?」



そんなこと、可能だろうか。

いや、仮定の話か。

そういえば、ブラムも同じことを言っていた気がする。


いや、違うか。

ブラムは、違う。

あいつは。

そう。

言いたいこと言ってるだけだ。



「……どうにか、できるなら」


「ええ。もし、できるなら。何でも構いません。まず、なにかひとつ。なにをしますか」



なにをする?

まず、ひとつ?


ライラは目を伏せた。

するとなぜか、妙なものが頭の中に浮かんだ。



「……ポトンの実」


「ほう」


「……ポトンの実が、食べたい」


「ウォーレンには、あまり流通していない果物ですね。まず、それを?」


「まず、それを」


「ははあ。ではユフベロニアか、いや、パーウラマでもいいですね」


「……ユフベロニアは、まだあまり」


「では、パーウラマですね」



マーウライが微笑んで言った。

まるで旅行先を決めるようだった。

いや、そうなのか。



「でも……まあ、ポトンの実は、たくさんお金を使えば手に入りますし」



旅に出るなど、不可能だ。

ソウカンが許すはずもない。

ささやかなこの願いは、湯水のように大金を使って叶えるとしよう。



「ライラ様。もしもの、話です」


「もしもの?」


「ええ。もしもの。今はただ、ライラ様がどのように考えているのか。それだけを知りたかった」


「……満足しました?」


「ええ。ブラムには伝えなかったことを、私には教えてくださいました」


「……ふふ。優越感、ですか」


「その通り」



マーウライが胸を張った。

まるで少年のようだと、ライラは小さく笑った。

「聖魔のはじまり(前編)」の章は、これで終わりとなります。


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