何がしたい?
「エルナ様……いえ、ライラ様」
怒鳴ったライラの傍に、マーウライが寄った。
跪き、頭を垂れた。
「ライラ様。ほんの少しだけ、私と二人で話をさせていただいても構いませんか」
「……ふたりで?」
「ええ」
マーウライが頷く。
するとやはり、分かっていたようにブラムとアテンたちが、ライラから離れていった。
とはいえ、見えなくなるほどではない。
声が聞こえない程度に離れただけだ。
ブラムたちが離れたのを見て、マーウライが口を開いた。
「ブラムには言えないこともあるでしょう」
「……だって」
「代わりに私が聞きましょう、ライラ様」
「マーウライが? でも、そうしたらブラムに言うでしょう?」
「言うかもしれないし、言わないかも。ライラ様の気持ちを私だけのものにするために」
「じゃあ、言わないで」
「善処します」
「約束して」
「ええ。言わないように善処します」
マーウライが微笑んだ。
ああ。
絶対に、ブラムに言うだろうな。
間違いなくそうするだろうと、ライラは思った。
でも、なぜか。
それでもいいような気がした。
マーウライなら、ブラムの暴走を止めてくれるだろう。
これほど簡単に、頑なになっていた私の心を溶かしたのだ。
考え無しのブラムなんて、マーウライにかかれば、いちころだ。
「……私は、ブラムを死なせたくない」
ぽつりと、言葉が落ちた。
その声は、マーウライには聞こえないほど、小さなものだった。
しかしマーウライは、小さく頷いた。
「それからは? 他になにがしたいですか?」
「……どこか、別の場所へ行きたい」
「どこに?」
「……どこでも。のんびり暮らせるなら、どこでもいいです。そのために、こうして旅をしてきたのですから」
「長い旅でしたね」
「……そうです。本当は……旅したいわけじゃない。嫌いじゃないけど。色んなものが見れるし、楽しいこともあるけど」
「ライラ様は、馬車に酔われますからね」
「……そうなのです。それなのに、ブラムったら、なにも分かってない」
「ブラムはちゃんと分かっていると思いますよ」
「……分かってないわ。あいつ、私のことすぐに馬鹿って言うんだから」
「これほど素敵な淑女に」
「……そこまでじゃない、ですけど。でも……私だって、本当は、色々考えてるんだから」
「ええ。もちろん。ライラ様が望まれるままに生きていけるように」
「……そう、そのために……でも、どうしようもないの」
「どうにか、できるとしたら?」
「どうにか、できる……?」
そんなこと、可能だろうか。
いや、仮定の話か。
そういえば、ブラムも同じことを言っていた気がする。
いや、違うか。
ブラムは、違う。
あいつは。
そう。
言いたいこと言ってるだけだ。
「……どうにか、できるなら」
「ええ。もし、できるなら。何でも構いません。まず、なにかひとつ。なにをしますか」
なにをする?
まず、ひとつ?
ライラは目を伏せた。
するとなぜか、妙なものが頭の中に浮かんだ。
「……ポトンの実」
「ほう」
「……ポトンの実が、食べたい」
「ウォーレンには、あまり流通していない果物ですね。まず、それを?」
「まず、それを」
「ははあ。ではユフベロニアか、いや、パーウラマでもいいですね」
「……ユフベロニアは、まだあまり」
「では、パーウラマですね」
マーウライが微笑んで言った。
まるで旅行先を決めるようだった。
いや、そうなのか。
「でも……まあ、ポトンの実は、たくさんお金を使えば手に入りますし」
旅に出るなど、不可能だ。
ソウカンが許すはずもない。
ささやかなこの願いは、湯水のように大金を使って叶えるとしよう。
「ライラ様。もしもの、話です」
「もしもの?」
「ええ。もしもの。今はただ、ライラ様がどのように考えているのか。それだけを知りたかった」
「……満足しました?」
「ええ。ブラムには伝えなかったことを、私には教えてくださいました」
「……ふふ。優越感、ですか」
「その通り」
マーウライが胸を張った。
まるで少年のようだと、ライラは小さく笑った。
「聖魔のはじまり(前編)」の章は、これで終わりとなります。
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