くだらねえことさ。
「あの頃のままですね、マーウライ」
「まさか。本当にあの頃のままなのは、エルナ様ですよ。変わらずお美しい」
「……あ、はは。でもこの街に来てから結構経ったのですけどね」
「そのようで。とても心配しておりました」
「もちろん。会いに行きたい想いを毎夜耐えていたのです」
「まさか」
「はは。こうしてお会いできて、私の心は満ちました」
「適当なことばかり言って」
「まさかまさか」
マーウライが小さく笑った。
その笑顔が、ライラの心に刺さった。
(……あー、ダメだ。これは良くない)
ライラは高鳴る胸をぐっと抑えた。
今さら、あの頃には戻れない。
戻れば、マーウライに失礼というものだ。
ライラは後ろを向き、館のほうを見た。
遅れて、ブラムがゆっくりと歩いてきていた。
「よく来たな、マーウライ」
ブラムがぶっきらぼうに言った。
今会ったばかりとは思えない態度だった。
きっとこれまで、何度か会っていたのだろう。
最近家にいなかったのは、マーウライとなにか話をしていたからか。
「遅くなった」
「遅え。ギリギリじゃねえか」
「そのほうが格好も良いだろう?」
「上手くやれなきゃ、格好良くはなれねえよ」
「はは。それはたしかに」
マーウライがにかりと笑った。
余裕のある笑顔だなと、ライラは思った。
しかしいったい、何の話をしているのか。
「……あの、話に付いていけないのですけど」
ライラは顔をしかめる。
するとマーウライがすぐにライラの前へ行き、一礼した。
「失礼しました、エルナ様。このたびは、窮地からエルナ様をお救いするために参りました」
「……はい?」
「明日の晩餐会、エルナ様が願う通りに、私が立ち振舞ってみせましょう」
「……つまり?」
ライラは首を傾げた。
いったい、ブラムとマーウライは、何の話をしてきたのか。
もしかして――
「まだ分かんねえのか」
ブラムがにかりと笑った。
マーウライの笑顔とは違う。
憎たらしい顔だった。
その憎たらしい顔を、さらに悪そうにして、ブラムがライラへ寄った。
「いいか。俺たちは明日、晩餐会をぶっつぶす」
悪そうな顔。
いや、完全に悪役の顔だ。
晩餐会をぶっつぶす?
なぜ?
ソウカン様に逆らうため?
そこまでして、その後、どうするの?
「その前にライラ。お前と話を着けようじゃねえか」
「何の話ですか」
「ああ? 分かってんだろ?」
「だから、なんですか?」
「これから、どうしたいかってこった」
「……これから?」
ライラは眉根を寄せ、ブラムを睨んだ。
これからって、なんだ。
もう全部、決まっているではないか。
抗えない未来がある。
ソウカンには逆らえない。
逆らえばどうなるか。
あの魔法道具、ヘイリグラウスの血涙で、ブラムが殺されるかもしれない。
そんなことは、絶対にあってはならない。
微かな可能性も、あってはならない。
「ライラ」
ブラムの顔が、さらにライラへ寄った。
威圧感が、ライラの全身を圧した。
「お前が考えてるこたあ分かってる。くだらねえことさ」
「くだらなくなんてない」
「くだらねえ。俺は、おまえがどうしたいのかって聞いてんだ。お前を縛るもんがなにもなけりゃあ、お前はどうしたいんだ? ああ?」
「そんなの言えるわけない」
「うるせえ。言えよ」
「言ったら、ブラム。あなたはそうするでしょう?」
「知らねえよ。言うだけだって言ってんだろ」
「言わないったら!」
ライラは怒鳴った。
久しぶりに、大声をあげた気がした。
しかし、その場にいたブラムとマーウライ。あとから寄ってきていたアテンたちも、ライラの声に驚くことはなかった。
まるで、そうなると分かっていたように。




