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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十六章 聖魔のはじまり(前編)
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変わらない温もり


晩餐会の前日。

いまだブラムたちが帰ってこない、早朝のこと。

思いもしない客が、ライラの屋敷を訪ねてきた。

ライラはあまりに驚いて、玄関を開けた瞬間固まってしまった。



「……エイドナさん!?」



館の玄関前に、ガラッド村のエイドナが立っていた。

エイドナの後ろには、同じくガラッド村のレッサがいた。

あまりに平然と「久しぶりだね」などと言ってきたので、ライラは混乱し、半歩退いた。



「ど、どうして!?」



慌てるライラ。

周囲の使用人たちまでも、主人の焦燥感が伝染し、ソワソワとしはじめた。

するとエイドナが、そっとライラの手を取った。

優しく包み、微笑んだ。

その微笑みを見て、ライラはようやく、ほんの少しだけ落ち着いた。



「アテンから手紙をもらったのさ。あんたが大変だってね」


「……アテンが?」


「病人の世話をしてるんだって? 世話してる本人が病人みたいな顔してるって書いた手紙を寄越してきたもんだからさ」


「……あ、あー……」


「あー、じゃないよ、まったく」



エイドナがライラの頭をコツリと叩く。

ライラは頭を押さえて、申し訳なさそうに俯いた。

するとエイドナがライラの細い身体を抱きしめた。


エイドナの身体は、小さくなっていた。

肌も、以前より白い。

死が近いのではないかと、はっきり思わせた。


それでもエイドナの身体は温かかった。

若い身体のライラより、何倍も温かい。



「ま。心配してここまで来た甲斐があったってもんだよ」


「本当に申し訳なく……」


「いいってもんさ。フィナお嬢さんが私らにしてくれたことに比べたらね」


「なにかしましたっけ」


「はは。そういやあんたは、ただ金を使って自分のやりたいことをしただけかもしれないねえ」


「ぐうの音も出ません」


「だけどそれでいいってもんさ。善人の善行より、あんたの行いのほうが真面で、信用できるからねえ。はは」



エイドナが大笑いした。

後ろにいたレッサも同意して笑っている。

褒められた気がしないライラは、ただ苦笑いして、頭を小さく下げる他なかった。



エイドナとレッサを迎えて、昼。

アテンとグナイも加わって昼食を取りはじめたころ、ブラムが帰ってきた。

エイドナたちの姿を見ても、ブラムが驚くことはなかった。

むしろ、ようやく来たのかと言わんばかり。



「ブラムは知ってたの? エイドナさんたちが来ること」


「いや、知らねえよ」


「でも驚いてなかったじゃない」


「……ああ、まあ、そういうもんだってことらしいからよ」


「……そういうもの?」


「それよりもっと驚くことがあるぜ」


「……はい?」



ライラは首を傾げる。

するとブラムが、館の前庭を指差した。

前庭には、馬車が一台停まっていた。

警護の騎士たちも見える。

どうやら貴族が来たらしい。



「ま、まさか、ソウカン様?」



ライラは一瞬ぞっとしたが、すぐに落ち着いた。

ブラムが首を横に振ったからだ。

いや、ブラムが否定しなかったとしても、ソウカンが来ることをブラムが良しとするはずがない。

きっとなにかと理由を付けて追い出しているはずだ。



「なら、あれは誰です?」


「お前の知ってる奴さ」


「今まで会食してきた相手ですか?」


「まあ、そうだな。今までって言やあ、今までしてきた相手かもな」



ブラムが答えを避けて、眉を上げた。

どうやら馬車からその人が下りてくるまで、何も言うつもりがないらしい。

面倒臭いなとライラは思ったが、ぐっと我慢した。

共に食事をしていたエイドナたちに退席の礼をして、玄関へ向かう。


使用人たちが玄関の扉を開けると同時に、馬車から人が出てくるのが見えた。

遠目から見ても、やはり貴族だと分かった。

しかし何故か。

嫌な気分にはならなかった。


むしろ、心の中の何かが高揚した。



「え……え? ええ??」



言葉にならない声が、口から漏れ出た。

何故? という思いが、心から溢れ、全身を巡って、噴き出した。


ありえない。

今日はなんと言う日なのだろう。

エイドナたちが訪ねてきただけでも異常なのに。

まさか、こんなことがあるなんて。



「……マーウライ」



馬車から出てきた人。

それは、カウナのマーウライだった。

ずいぶん歳を重ねた姿だが、間違いない。

最近でも、たまに夢に出てくる、あのマーウライだ。



「マーウライ!!」



ライラは駆けていた。

駆けていたことに気付いたのは少し経ってからだった。

馬車の前にいるマーウライの顔がはっきりと見えて、ライラは我に返った。

それでも、いまさら駆けるのを止めることはできなかった。



「エルナ様」


「マーウライ!」



マーウライは、直立したまま待っていた。

腕を広げて待っていてくれたらいいのにと、ライラは思った。

いや、さすがにそれはないか。

お互い、そういう関係ではない。

そうだ。

うん、そうだった。


マーウライの傍まで来て、ライラはようやく足を止めた。

マーウライは、すでに四十歳を超えていた。

しかし、あの頃となにも変わらない。

気品があり、ふわりと包んでくれる笑顔をライラに向けていた。

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