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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十六章 聖魔のはじまり(前編)
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加速させる


「やがて、世界は再び滅ぶ」



時を止めるような、鋭く冷たい声だった。

あまりの声音と言葉に、ブラムは大きく口を開けた。



「……は?」


「滅ぶ世界を救うために、ライラは世界を加速させなくちゃならない」


「……は? 滅ぶ?? 加速だあ?? なんのこった??」


「そのままの意味だよ、ブラム。そのためにライラは力を使っている。ボクはそのライラを見守っている」



そう言ったペノが、しばらく苦い顔をした。

ところが、周りにいたいくつもの影が、ペノの背を押すように喚きだした。

やがてペノは顔を上げ、ライラの影を見た。

そして大きく頷いた。



「それなら、そうしよう!」


「お、おい!! このクソウサギ!!」



ライラの願いを叶えたペノを見て、ブラムは喚いた。

ところが、周りにいたいくつもの影は、しんと静まり返った。

その静寂は恐ろしく、刺すような痛みすら感じた。



「……お前ら、ライラに、なんでこんなことすんだ??」


「たまたまだよ」


「……あ?」


「たまたま、ライラの番が来た。もちろん、適正もあったよ。でも、大部分が偶然で、特に意味はない」


「意味もなく選んだだと!?」


「そういうものだよ。ブラム。しかし選ばれた後に意味や価値を持つものもある」


「どういうこった……??」


「それが、君たちだ。ブラム」



ペノの指が、ブラムを指した。

その指差しひとつで、喚くブラムの口は、ぴたりと閉じた。

「神様のような者」

ペノは、本当にそういう存在なのだ。

自らの固く閉じてしまった口に、ブラムは目を細めた。



口を閉ざしたブラムをよそに、ライラの影がペノと話をつづけた。

ライラは淡々と、無欲に自らの願いをペノに伝えていた。

あまりに速く話が進んでいくので、ブラムは焦りを覚えた。

しかし焦れば焦るほど、ブラムの口は閉ざされ、ライラとの間に壁が生まれた。



「ブラム」



口を閉ざしたブラムに、ペノが囁いた。

その声は、周りにいるいくつもの影に聞こえないほど小さい声だった。



「君たちは、これからライラを守るんだ。ボクと一緒にね」



そう言ったペノが、かすかに耳を動かした。

その耳はなにかを感じて動いたようだった。

しかしなにを感じたのか、ブラムには分からなかった。



「ライラは使命を果たすため、彼らに力を使う道を進まされる。それは抗えない。抗おうとすれば、悲惨に暴走し、ライラは木偶となるだろう。そして木偶のまま、彼らの手によって道を進まされることになる」


(……とんでもねえ、クソみたいな話だな)


「そうとも。クソみたいな話さ」



ブラムの思考に、ペノが頷いた。



「そのクソに抗うため、ライラは三つ目の願いを使って守られている」


(三つ目だと?)


「一つ目は、金。二つ目は、生。三つ目は、避」


(……避? なんだあ、そりゃあ)


「世界のあらゆる強制力から逃れる、今は小さな力だ」



ペノが答えると、周囲の空間が揺らいだ。

揺らぎは、ペノを中心に起こっていた。



「そろそろ時間だ」


「な、なんだ??」



閉じていた口が、ようやく開いた。

そのブラムを、膨れはじめていたペノが包んだ。



「ブラム。意識を失う前に、周りを見て」


「あ? 周りだと??」


「君たち以外、すべてが、敵だ」



膨れあがったペノの身体に包まれ、取り込まれ、ブラムは藻掻きながら周りを見た。

すると周囲に、ペノと、ブラムとライラを見る者たちがいた。

先ほどまでいた、いくつもの影とは、別の影。

明らかな敵意を向ける、異様な影たちだった。


先ほどまでの影たちも、異様な影たちも、すべてが敵のようなものだとペノが言った。

ところが、ブラムと、ライラの傍に、これまで見えなかった別の影が見えた。

それらが「君たち」なのだと、ブラムは思った。


やがて周囲の白と黒の宇宙が、ペノの中へ取り込まれ、混ざった。

混ざった瞬間、ブラムの頭の中からなにかが抜けたり、消えたりした。



(……クソが)



抜け落ちていくなにかに手を伸ばそうとした直後。

ブラムの意識はどこかへ流れ、ぷつりと消えた。

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