スッキリしちまおう
アルサファと食事をして、昼。
ソウカンの屋敷へ行くことが決められた。
ライラが決めたわけではない。
アルサファと、ブラムが決めたのだ。
ライラとしては、行きたくなかった。
ライラの邸宅内を監視するような相手なのだ。
嫌悪感もあるし、これ以上関わりたくなかった。
「お前が関わりたくなくても、もう逃げられねえだろ」
ソウカンの屋敷へ行くことを渋るライラに、ブラムが言い放った。
そんなことは分かっているが、ライラは唇を歪めてみせた。
「逃げられないのは分かってます。だったら、もうずっと大人しくしておいたほうが良いと思いませんか」
「大人しくしてよ、今より不利になったらどうすんだ? ここいらで落としどころを決めちまったほうがいいだろうがよ」
「落としどころを決めようとしたって、不利になるに決まってます」
ソウカンはわざわざ、メノス村までライラの事を探らせたのだ。
となれば、ライラが異常に長生きだということを知っていることになる。
この世界において、人間の姿で長寿な生命は魔族だけだ。
ライラのことを魔族だと勘違いされるのは、避けられないだろう。
ライラだけではない。
ブラムのことも探られているはずだ。
ガラッド村から来たアテンとグナイも、同様だろう。
「良い状況になることなんて、あり得ませんよ」
ライラは投げやりに言葉を吐き捨てた。
それを拾うようにして、ブラムがライラの前に立った。
「そんなこたあ、どうだっていい」
「どうだっていいって……えええ……?」
「俺たちは別段頭も良くねえからよ。ソウカンを出し抜いて何とか切り抜けようなんざ思っちゃいねえ。クナド商会に頼っても無駄だろうよ。あいつらだって、出し抜かれちまったわけだからな」
確かにそうだと、ライラは苦い顔をした。
クナド商会の目的は、ライラを大貴族に押し上げて巨万の富と権力を得ることだった。
しかしその目論見は、失敗に終わった。
ライラの弱みを握ったソウカンが、ライラを貴族として大成させるはずがないからだ。
ソウカンの管理下に置かれたライラと手を組みつづけても、クナド商会が強い権力を得ることは難しいだろう。
「……じゃあ、どうしてソウカン様に会うの?」
ライラは怪訝な表情を隠さず、腕組みをした。
するとブラムが、両手のひらをライラに向け、片眉を上げた。
「ここまで来ちまったんだ。ソウカンの奴が俺たちをどうするつもりなのか、さすがに言ってくれっだろうよ」
「そう、でしょうか?」
「そうしなきゃあ、小心者のお前がなにをしだすか分かったもんじゃねえ」
「……たしかに、そうかも?」
「お前がソウカンを訪ねなくても、そのうち奴がやってくるだろうぜ。それならとっととこっちから行って、スッキリしちまおう」
「スッキリするかなあ」
「しねえだろうが、数日靄の中にいるよりゃあ良いだろうよ。ま、靄から出た先は晴れじゃねえだろうがな」
「……どっちも嫌だなあ」
「るせえ。とっとと行くぞ。おい、アルサファ。こいつの準備を手伝ってやれ」
「承知いたしました」
「いえ、アルサファさんはお客様なのですけど……、え、ちょ、あ、アルサファ、さん? え、なに、ちょっと……」
ブラムに指示されたアルサファが、ライラの手を掴んだ。
強引に手を曳かれ、寝室へ押し込まれる。
遅れてやってきた使用人たちも、ライラを取り囲み、着替えを手伝った。
着替えが済むと、ライラはすぐさま馬車へ詰め込まれた。
あまりに手際の良いアルサファ。
やはりリザの子孫なのだなと、ライラは舌を巻くのだった。




