辿り着く忠誠
「ランファ様、自分はテロアより参りました」
「ええ。以前そう伺いました」
「ですが、本当は別のところで暮らしています」
「嘘をつかれていたのですか?」
「嘘、とは違います。しかし大きな都市のテロアから来たとしなければ、こうして面会することを許されないと思ったからです」
「……たしかに、そうなっていたかもしれませんね」
ライラは申し訳ないと思い、謝罪した。
支店長やガンカなら、訪ねてくる者が所属する都市の名で、会うか会わないか選別することだろう。
そんなことをしなくても誰とでも会うのに。
そうライラが言ったところで、あのふたりは選別することをやめたりしない。
「では……どちらで暮らしていらっしゃるのですか?」
ライラはアルサファの瞳を覗いた。
フードの内から見えるその瞳が、かすかに揺れた。
アルサファがフードを取り、顔を見せた。
その顔は、以前会ったときと雰囲気が違っていた。
いや。
あえて雰囲気を変えたのだ。
その理由を、ライラは一瞬で理解した。
「……メノス村、ですか」
ライラが声をこぼす。
間を置いて、アルサファが小さく頷いた。
アルサファの髪。
懐かしいと思うような髪型だった。
メノス村でのライラの使用人、リザの髪型とまったく同じだった。
雰囲気が似ていたこともあって、今のアルサファは、リザに瓜ふたつだった。
「……アルサファさん、あなたは……誰ですか」
「私は……」
アルサファがライラの目を覗いた。
瞬間。
ドクンと。
ライラの胸の奥が動いた。
アルサファが、なんと答えるのか。
答えを聞く前に、分かった。
「……ライラ様。私は、あなたの使用人リザの末裔で、アルサファと申します」
再び、ドクンと。
胸の奥底が、激しく揺さぶられた。
「……まさか」
どうして。
リザの子孫が、ここにいるの?
いや。
どうして、ランファではなく、ライラと知っているの?
(……リザの子孫だから、分かる……?)
そう考えたが、そんなはずはない。
リザには、行先も告げていないし、どのように生きるかも語らなかった。
各地で偽名を使いつづけ、長く留まらず、放浪を繰り返してきた。
ライラが生きているという証拠すら、残してきたはずはなかった。
子孫なら、尚更だ。
ライラのもとへ運良く辿り着けたとして、ライラの顔など知るはずもない。
アルサファとは、今日含めて二度しか会っていない。
ライラのことを見抜くことができるとは思えなかった。
「ライラ様。自分がなぜライラ様のことを知っているのか、お話しいたします」
ライラの戸惑いを見透かしたように、アルサファが言った。
ライラはごくりと唾を呑み、頷いた。
「ライラ様。私たちは、代々契約の魔法を自らにかけています」
「ま、魔法? ど、どんな契約を……?」
「ライラ様のことを他言しないという契約です」
「どうしてそんなことを……?」
「ライラ様の秘密を守るためです」
アルサファが真剣な面持ちでライラを見据えた。
その瞳が、別れの日のリザと重なった。
あの日から、今に至るまで。
リザは考えてくれていた。
ライラのために、何ができるのかを。
ライラの力を絶対に隠すために、高価な魔法道具まで買って。
だけど――




