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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十五章 黄金の時
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父の代わり


ソウカンは、待っていたようだった。

ライラが面会を求めると、早々に屋敷の扉を開いてくれた。



「招待状のことですかな」



ライラがなにを言わずとも、ソウカンは微笑むようにして言った。

ライラは小さく頷き、かすかに俯いてみせた。



「私は貴族ではありません」


「もちろん知っています」



ソウカンが頷いた。

しかしライラを拒絶したようではない。

むしろライラに同情しているような表情を見せた。



「ファロウの民は、ランファ様を貴族にしたいのだ」


「分かります」


「ランファ様の思いはともかく、ランファ様の周りがそれを望んだ。もうこの流れは覆らないでしょう」


「私が断ればどうなりますか」


「今断っても、ただの謙遜としか思われますまい。そうでなかったとしても、そう思わせるように、周りが演出するでしょう」



ソウカンが小さく笑った。

ランファのための演出に、自らも一枚噛んでいると言いたげだ。

その表情を見て、ライラは心の内の焦りが消えていくのを感じた。

安堵したわけではない。

ただ、諦めに似た思いが、心に満ちた。



「とにかく、晩餐会が不安なのは分かります。この晩餐会はファロウの貴族だけではない、ファロウ周辺の街の貴族たちも招かれていますからな」


「そ、そうなのですか??」


「ええ。ですから私も、初めての晩餐会は不安で不安で仕方なかった。三日前から真面に眠れなかったほどです」


「ソウカン様が……? まさか」


「はは。私も所詮、ただの人というわけです。しかしあの時は、私の父が私の手を握り、安心させてくれました」


「……私にも……安心させてくれる父がいればいいのですが」


「はは。なるほど」



そう言ったソウカンが、ライラに半歩寄った。

ライラは妙な威圧感を覚えたが、ぐっと堪えた。



「ならば私が代わりとなりましょう。ランファ様がなにひとつ困らないよう、すべてお膳立てして差し上げます」


「まさか。そこまでしていただかなくても」


「いえ、そうさせてください。今後もランファ様と良い関係でありつづけるために」


「十分、未来の分まで前倒して、良くしていただいていますよ」


「はは。それは嬉しい。ならばさらに前倒しておきましょうかな」



ソウカンが流れるように言葉を並べた。

まるでこうなると分かっていて、準備をしていたようだった。

いや。

実際そうなのか。

ライラの後ろ盾となりつづけたのは、この時のためでもあっただろう。



(……ソウカン様と、クナド商会の間で、踊らされてるだけなんだなあ、私)



ソウカンを前にして笑顔を見せつつも、ライラは心の奥底で深くため息を吐いた。


老人病を終わらせるため、利用してきたソウカンとクナド商会。

事ここに至って、互いに利用し合ってきたのだと改めて実感してしまう。

そして彼らの思考は今や、ライラの浅い考えよりもさらに深く、広く、蠢いているだろう。



『ソウカンの手の内から逃げておいたほうがいい』



あの日、ペノが言った言葉をライラは思い出した。

たしかにそうだったと、改めて思う。

しかし、もう遅い。

あとは、もう。

流されつづけるだけだ。



(……こんな状態で、ブラム、私を守れるの?)



ライラは、諦めの色を瞳にだけ落とし、振り返った。

共に来ていたブラムが、数歩離れて立っていた。

ライラが振り返ったのを見ると、ブラムは微かに目を細めた。


ブラムの瞳は、力強さに満ちている気がした。

大丈夫だ。

根拠もなく、そう言っている気がした。



「……では、ソウカン様。……お願いしてもよろしいですか」



ブラムの瞳に押され、ライラはソウカンに頭を下げた。

間を置いて、ソウカンが静かに頷いた。

こぶしを握って喜ぶのではないかと思ったが、粛々とライラの言葉を受けた。



「では当日。晩餐会が催される屋敷の前庭へいらしてください。共に会場へ向かいましょう」


「分かりました」


「なにひとつ心配はいりませんぞ」


「……心強いです」



ライラはもう一度頭を下げ、笑顔を見せた。

静かだったソウカンの笑顔も、少しだけ緩んだ。

その緩んだ表情も、妙な威圧感があるなと、ライラは思うのだった。

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