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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十五章 黄金の時
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抜け落ちる


ぺウランとレイニー、そしてアルサファとの会食から数十日。

ライラは依然として、様々な有力者との会食を重ねていた。

変化があるとすれば、街の外の有力者と会う回数が増えたことか。

面倒事がどんどん増えていくなと、ライラは辟易していた。


クナドの支店長は、当然現状を喜んでいた。

出資分を取り戻すほどの金が、集まってきているらしい。



「そりゃあ、まあ。お金のほとんどはライラが出してるもんね」



ペノが呆れ顔で囁いた。

たしかにそうかもと、ライラも同意した。



「でも最近は私もお金を使ってませんけどね」


「ファロウの貴族たちが出資を始めたからねえ」


「どうして急にみんな、お金を出し始めたのでしょう?」


「そりゃあ、そうだよ。ソウカンの下とはいえ、ライラやクナド商会、有象無象の商人たちが寄り集まってね、新区域なんか作っちゃって、影響力をどんどん強めてるんだから」


「勝手に街が大きくなって、やったーって、私なら思いますけどね」


「みんなね、能天気なライラとは違うんだ。予想以上にライラの人気が上がって、ようやく焦ってきたわけ。しかも新区域だけじゃなく、ファロウ中の下水工事とか美化活動までされちゃってるんだから。ライラの自腹でね。そんな太っ腹ライラを、街の貴族たちが黙って見てるわけにはいかないでしょ?」


「ソウカン様は気にしてなさそうですけど」


「ソウカンだけは別。当たり前でしょ。ライラの後ろ盾なんだから。ライラの人気はソウカンの人気でもあるわけ」


「みんな、アレコレ考えてるんですね」


「ふんわりとしか考えてないのはライラだけだよ?」


「そんなことないですけど」


「そう? たとえば?」


「え? ……えっと、うん、と……え、っと……」


「まあ、そういうことだよねえ」



ペノがさらに呆れ顔を見せた。

ライラは納得できなかったが、たしかにアレコレ考えているかと問われたら、答えは否だと思った。

自分のために、街の雰囲気が良くなればいいと思っていただけなのだ。

なにか問題が起きれば、何も考えずすぐ逃げようとすら思っている。



「ライラ」



眉根を寄せるライラの耳に、ブラムの声が届いた。

ブラムの声は、窓の外からだった。

見ると、ライラに向かって手招きしているブラムの姿があった。



「どうかしたの?」



ライラは外に出て、ブラムのところへ歩いていった。

手招きしていたブラムが、顔をしかめながら首を横に振った。



「招待状が届いたぞ」


「そうなの? 誰からですか?」


「貴族どもだ」


「貴族? 会食のつづきでしょうか?」


「んなわけねえだろ。こいつあ晩餐会の招待状だ。貴族だけのな」


「晩餐会なら……会食みたいなものではないですか」


「貴族だけのって言ったろ。馬鹿ライラ」



ブラムが大きくため息を吐いた。

ライラは馬鹿と罵ったブラムを叩いた後、小首を傾げた。


貴族だけの晩餐会。

それに呼ばれたということは?



(……私が貴族だと、認められたことになるの?)



そう脳裏に過ぎった瞬間、寒気が背筋を駆け抜けた。

望まない方向へ進みだしている気がした。

もちろん分かっていて、手を引かれて、ここまで来た。

しかし、自らの手では制御できない場所まで進んでしまったのではないか。

最悪、逃げることも出来なくなったのではないか。

ライラの手から、甘い目論見がずるりとこぼれて抜け落ちた感覚がした。



「……ソウカン様のところへ行きます」


「ソウカンの? なんでだよ」


「私ひとりでは、こんなこと抱えられません。出来ることなら、一歩引きたいです」


「そうも行かねえだろ。何度も言われて分かってるとは思うがよ。お前が似非貴族になるのはクナド商会が望んでるこった。ここでビビッてひっくり返しちゃあ、クナド商会がお前に手を貸した意味がなくなるんだぜ」


「べ、別にビビったわけじゃ……」


「ビビったんだろ」


「……ビビッてなんか」


「ああん?」


「…………ビビっちゃいました」


「分かってらあ」



肩を落としたライラに、ブラムの声が抜けた。

とんと、ライラの頭の上にブラムの手。



「心配すんな。なにがあっても俺が守ってやらあ。いつもそうしてきてやったろ」


「……ブラムを振り回しちゃって、申し訳ないです」


「馬鹿ライラ。お前が振り回さなかったことがあんのかよ」


「少しはありますよ。あと、馬鹿って言わないで!」



ライラは、自身の頭に乗ったブラムの手を握る。

振り払おうと思ったが、ブラムの手は動かなかった。

重くも、強くも感じなかったが、動かせなかった。

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