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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十五章 黄金の時
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黄金の時


新区域の中央通り。

大群衆を招くように、巨大な門が建設されていた。

門には女神の像が据え付けられている。

それが自らを模した像だとライラが知ったのは、完成してから数か月経ってからだった。



「……いまさら外せませんよね、アレ」



巨大な門を潜り抜ける馬車の中、ライラはため息を吐いた。

支店長が「まさか」と声をあげ、首を横に振った。



「ファロウの象徴となる予定なのです。もう覆せません」


「こういうことするなら、先に言ってほしいのですが」


「先に言えばお断りになるでしょう?」


「それはそうですよ」


「ですから言わなかったわけです」



支店長が得意げに言う。

ライラはがくりと項垂れ、窓の外の、女神の像を横目に見た。

言われてみれば自分にそっくりだなと、ライラは思った。

そう思うほどに、背筋が寒くなる。

このままでは、平穏な生活がどんどん遠くなっていく。



「さて。そろそろ会食の場所です。この日のために、最高の屋敷を用意しました」



そう言った支店長が、窓の外を指差した。


純白の壁が取り囲む、広大な庭園。

庭園の中には、いくつもの塔と、美しい館が建てられていた。

馬車が庭園に入っていくと、澄んだ音が馬車の下の道から鳴りひびいた。



「これは……ロズの葉の音ですか」


「よくお分かりで。館に繋がる道の下に、ロズの葉を仕込んだ箱が埋められています」


「まるで別世界に来たかのようですね」


「その通り。この屋敷は、ランファ様のために造ったものでもあります。別邸としてお使いいただいて構いません」


「……冗談でしょう?」


「本当です。すでにランファ様のための使用人も大勢雇っております。クナド商会からの贈り物だと思って、どうかお受け取りください」


「……この分の見返りを私に求めていそうですね」


「それはそれ。今後も良き関係を築き、さらに上を目指すため。すべては計画通りです」


「……分かりました。じゃあ、今は喜んで受け取っておきますね」


「ありがとうございます、ランファ様」



支店長が深々と頭を下げた。

その支店長の頭の上に、ペノがぴょんと飛び乗った。

愉快そうに両耳を振り回している。

ライラは面倒に過ぎるという思いに満ちて、ペノを摘まみ上げ、座席の端へ放り投げた。



美しい庭園の、ロズの小道を抜けていく。

庭園を囲む壁同様に、館もまた真っ白な外壁であった。

館からは四つの塔が伸びていた。

まるで王宮のようだと思っていると、心を見透かしたかのように支店長が微笑んだ。



「この屋敷の建設は、ソウカン様の許しを得ています」


「……まあ、貴族さまが許さなければ、こんなもの建てられませんよね」


「おかげで民衆は、ランファ様のことを貴族の一員だと認めるでしょう」


「そうでしょうね」


「楽しくなってきたでしょう?」


「んー。全然楽しくないですねえ」



ライラは本音と共に、困り顔を支店長とガンカへ向けた。

苦笑いした二人が肩をすくめ、館の前で止まった馬車から下りた。


ライラも馬車から下りると、同時に馬から下りたブラムと目が合った。

ブラムは涼しげな表情だったが、瞳がやや虚ろだった。

ライラの思いと同じで、贅沢に過ぎるこの状況に辟易しているらしい。

とはいえライラとは違い、しっかりと平静を装っていた。

さすがは外面だけ良い男だと、ライラは眉をひそめてみせた。



館に入ると、ふたりの男と、ひとりの女がライラの前へやってきた。

男たちは、ぺウランとレイニーの商人だった。

商人たちがライラに恭しく礼をしたので、ライラも丁寧に礼を返した。


商人たちと共に現れた女は、テロアの有力者の使者だった。

使者の女もまた、ライラに向かって恭しく礼をした。

その姿に、ライラはほんの少し戸惑った。

どことなく、懐かしい姿だったからだ。

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