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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十五章 黄金の時
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発展に舞い込む、微かな


大都市のようだなと、ライラは感心した。

ライラと商人たちで手掛けた、ファロウの新区域のことだ。

クナドの支店長たちと視察に来ていたライラは、二度三度と、まばたきをした。


新区域は、ファロウの端にある。

それにもかかわらず、大いに賑わっていた。

クナド商会と街の商人たちが切り盛りすることで、商売が特に盛んとなっているからだ。

おかげで、ファロウの中心部よりも人が集まっていた。



「遠くの街からも人が来ているのですね」



行き交う馬車を見て、ライラは驚きの声をあげた。

北のクローニル地方からだけでなく、南のゼセド地方から来ている馬車もあった。

それらの馬車を指差したクナドの支店長が、満足げに頷いた。



「遠方の商人については、我々が呼んでいます」


「呼んだのですか? わざわざ?」


「そうです。ランファ様と協力しはじめてからすぐ、馬を飛ばして連絡しましてね」


「もしかして遠方から来ている人は……皆クナド商会の商人なのですか」


「八割は。しかしそれは秘密ですぞ」



そう答えた支店長が、口元に手を当てた。

悪そうな顔だなと、ライラは肩をすくめてみせた。


手段はどうであれ、各地から来ている商人たちが、新区域をさらに活発化させていた。

様々な人々、様々な商品。

ファロウに元から住む人々が興味を持つには十分すぎるものだった。


「人が集まるのは商人たちのおかげだけではありません」と、支店長が言い加えた。

新区域の整然さと、清潔であることが、人々を長く留まらせているという。

ファロウの中心部からやってきて、旅行感覚で新区域の宿に泊まる人もいるらしい。



「下水管の埋設工事については、これでさらに加速するでしょう」



ガンカが安堵の表情を見せた。

ようやく一区切りついたといった顔だ。

「少し休んでくださいね」と、ガンカの肩をつつく。

もちろんそうさせてくださいと言わんばかりに、ガンカがため息を吐いた。



「さて、ランファ様」



クナドの支店長が、肩の力を抜いたライラを見据えた。

ライラはドキリとして、わずかに顎を引いた。



「ランファ様。本日の会食ですが」


「あ、今日も……あるのですね」


「ええ、もちろん。十日ほど先までは予定をお伝えしていたでしょう?」


「見てますよ、もちろん。忘れたいだけで」


「残念ながら、そうはいきませんので」



意地悪い顔をした支店長が、手元の紙を見せた。

紙には、支店長の予定がびっしりと書き込まれていた。

間違いなくライラの予定より多く、細かかった。

こうはなりたくないなとライラは思ったが、表情には出さず、支店長へ目を向けた。



「それで。今日は誰に会う予定でしょうか」


「ぺウランとレイニ―の商人がふたりずつ。いずれも大商会に所属する者です。様子見にでも来たのでしょう」



ぺウランは、ロウカウ河を挟んで北にある大きな街。

レイニーは、南東にある大きな街だ。

どちらも、ウォーレン地方の中ではファロウよりも栄えている大都市だった。



「……外の街の人とも会う必要が?」


「あります。特にレイニーとは関係を作っておいたほうが良いでしょう。ランファ様の噂がどれほどのものか知れば、今後は商人ではなく、貴族の使いが来るでしょう」


「えええ……面倒なことになりませんか」


「それは我らで調整いたします。主導権はこちらにありますから」


「それなら……いいですが。……では、その四人だけですか。今日会うのは」


「いえ。あとひとり。ユフベロニア地方の……テロアの街の者が来ます。こちらは、ふむ、商人ではありませんね。一帯の有力者とのことです」


「……テロア、の」



声にして、心臓が一度、ひどく跳ねた。

懐かしい想いからだけではない。

重く、締め付けられるような。

焦りにいた感情が、ライラを圧し潰そうとしている気がした。



「……分かりました。ブラムを呼んでくれますか。少し話をしたいので」


「畏まりました」



ガンカが礼をして、駆けて行った。

残っていたクナドの支店長とその側近も、なにかを察したのか。礼をして下がっていった。


長い間を置かず、ブラムが駆けてきた。

いつもなら面倒臭そうにしてゆっくり歩いて来るのになと、ライラは眉尻を下げた。



「どうかしたのかよ」



開口一番、ブラムが心配そうな声音で言った。

いつもはぶっきらぼうなのに、時々妙に鋭い。



「……テロアから人が来るそうです」


「テロアから? 支店長が呼んだのかよ?」


「商人ではないそうですから、たぶん違います」


「そうかよ。じゃあ、なんだろうな。たまたまじゃねえか?」


「テロアは八十年ほど前に行ってます。もしかしたら……」


「っは。まさか。偽名も違うし、分かりゃあしねえだろ。もしたまたまファロウにテロアの奴が来ていてよ、お前の顔を見たとしてもよ? そいつあ若くても九十歳くらいの老人だぜ。知らねえって押し切りゃあ、耄碌したんだなってことにならあ」


「……そう、ですよね」


「心配しすぎだ。最近、お前にしちゃあ仕事しすぎだからよ。疲れてんじゃねえのか」


「ですよね」


「しっかりしろ。ストレス発散したけりゃあ、お前の肩に乗ってるクソウサギを捻って投げりゃあいい」


「ちょっとお!? 突然ボクに的を向けないでくれるう??」



ライラの肩で眠っていたペノが、両耳をぴんと立てた。

その声にライラはほっとして、胸を撫で下ろした。

しかし、それでもなんとなく。

理由のないわずかな違和感が、ライラの胸中の端に引っ掛かった。



「なんでもねえ。いつもみたいにヘラヘラしてろ」



察したブラムが、ライラの頭にとんと手を乗せた。

それでもライラは違和感を拭えなかったが、唇をぐっと結び、モヤモヤとする心に蓋をした。

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