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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十五章 黄金の時
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護衛騎士たち


遅々として進まなかった、ファロウの下水管工事。

ようやく先を見通せるようになったと、ガンカが報告してくれた。


とはいえ、下水について、街の人々の考えが大きく変わったわけではない。

ランファという存在が大きいのだと、ガンカの隣に座るクナドの支店長が言った。



「ランファ様を聖女として崇める団体ができたと聞きます」


「……うそ?」


「本当です。かなりの人数であるとか」



ガンカの言葉に、ライラは眉根を寄せた。

クナドの支店長もまた、ガンカに同意した。

そうして、ライラの前に一枚の紙を見せてくれた。

それはソウカンの屋敷で見た、日報綴だった。



「元々散見されてまいましたが、十日ほど前から組織的になったとのことです」


「十日ほど前?」



ライラはズキリと胸が痛くなった。

十日前といえば、ソウカンの屋敷に行ったころだ。

その団体に、ソウカンの息がかかっているのは間違いない。



(噂の管理のために……団体を作ったということ……?)



疑念が過ぎった。

しかし、ぐっと堪え、掃った。

ソウカンに任せると、自分から言ったのだ。

いまさら不満を抱くのは筋違いというものである。


今は耐える他ない。

ソウカンが上手く事を収めてくれるまで、祈って待つしかない。



「……とりあえず、それはもういいです」


「気にならないのですか?」


「気にならないわけじゃないです。でも気にしても意味がないし、気にしつづけられるほど私は心が広くないので」


「まあ、そうですね。心の広さは別として、今は気にしないのが上策でしょう」


「でしょう? だからそろそろ出掛けましょう。今日は治療が終わった患者さんのところへ行くのでしょう?」



ライラは気を取り直し、立ち上がった。

ライラにつづいてガンカと支店長も立ち上がり、三人揃ってライラの邸宅を出た。


邸宅の外に、やや大きな馬車が着けられていた。

大きな馬車の前後には、騎士たちが控えていた。

その騎士たちは、ソウカンのお抱えの騎士だった。

ライラの護衛のため、最近は必ず派遣されてくるのである。



「この護衛、やめてくれないかなあ……」



ライラはぽそりとこぼした。

ガンカと支店長も同意らしく、小さく頷いた。

出掛けるたびに、仰々しくなるからだ。

あまりにやりすぎれば、かえってランファの印象が悪くなる。


もちろん、騎士の派遣をやめてほしいと、ソウカンには伝えていた。

クナド商会からの護衛も数人侍らせているから、という理由で。

しかしソウカンは、騎士の数を減らすだけで、護衛の派遣を止めなかった。

大事な聖女さまにもしものことがあってはならない。

とにかくアレコレと理由を付け、騎士による護衛を継続させられた。



「……ところでブラムはどこに行ったの?」



とぼとぼと馬車の傍まで来て、ライラはふと顔を上げた。

出掛ける時は、付いて来ようと来まいと、必ず顔を見せるブラムがいなかった。

するとすぐ、ライラの後ろで馬が嘶いた。



「こちらにいますよ、お嬢様」



驚いて振り返ると、少し高いところからブラムの声が落ちてきた。

ブラムが馬に乗り、ライラを見下ろしていた。

やや得意げな表情。

ほんの少しだけ、癇に障る。



「……ブラム。その馬はどうしたの?」


「買いました。本日は馬車の隣を並走し、護衛にあたります」



多くの人がいる手前、ブラムが丁寧な口調で言った。

ライラは訝しむようにして片眉を上げ、ブラムの傍へ寄った。

ブラムが下馬してライラに恭しく礼をする。

ライラはすぐにブラムへ詰め寄り、耳元へ口を寄せた。



「……どういう風の吹き回しですか」


「……ああ? 分かんねえのか、このウスラバカが」



詰め寄られたブラム。

表情を変えないまま口調を荒げた。

ライラは小さく首を傾げ、ブラムを睨んだ。



「……なんのこと?」


「……少し前に付いたソウカンの騎士どもだ。俺あ、こいつらを信用してねえ」


「……それは分かるけど、……馬車の外で目を光らせておくってこと?」


「……そういうこった。なんかあったとき、お前を守れねえからよ」



短く答えたブラムが、そっとライラから離れた。

長く話しすぎては、周りに妙と思われるかもしれない。そう思ったのだろう。

ライラはまだブラムに尋ねたいことがまだまだあったが、ぐっと堪え、半歩下がった。


ライラと、ガンカと支店長が馬車へ乗り込む。

一拍置いて、騎士たちの掛け声がひびいた。

その掛け声に押され、馬車が走りだした。

ブラムの声は聞こえなかったが、ブラムの馬の嘶きだけ、遅れて聞こえた。

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