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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十五章 黄金の時
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厳めしき使者


ブラムの底知れない体力が羨ましい。

ライラは疲労困憊の色を顔に浮かべ、ブラムを睨んでいた。


ライラは今、街の清掃作業を手伝っていた。

もちろん、ライラとブラムのふたりだけで掃除をしているわけではない。

有志を募って、早朝から大勢の人々と街の美化活動に携わっていた。



「ランファ様、少し休んでください」



ライラの傍にいた女が、気遣って声をかけてきてくれた。

青白い顔をしているライラを見かねたらしい。

ライラは力なく頷き、女に礼を伝えた。



「私も、私の従者くらい動けたらいいのですけど」


「あの方ですか? あの方は別格ですよ。比べてはいけません」



女が、体格の良いブラムへ視線を送りつつ答えた。

たしかに別格かもしれないなと、ライラは苦笑いした。

そうして、自らの細腕を見て、ため息を吐いた。


この細腕に鞭打ってはじめた、街の美化活動。

もちろん自らの意思ではなかった。

クナドの支店長からの要望、つまりライラの人気を上げるための要望があったからだ。

ライラは面倒と感じたが、ぐっと我慢した。

七日に一度だけで良い。そう支店長に言われたからだった。


とはいえ、街の清掃はなかなかの苦行であった。

いつも早朝からはじまり、昼過ぎまでつづくからだ。

体力のないライラにとって、この程度の作業でも辛いものがあった。


しかしブラムは、当然のように汗ひとつ流していなかった。

まるで優雅に散歩をしているようだった。

爽やかな表情を振りまき、他の人々と並んで働いていた。



「ねえ、ブラム」



疲れて休んでいるライラに気付いたブラムへ、ライラは顔を寄せた。



「なんだ?」


「ブラムって、魔法の力で疲れないようにしているわけではないですよね?」


「ああ?? そんな無駄なことするわけねえだろ」


「じゃあ、私はなんでこんなに疲れるの?」


「お前は特別ヘナチョコだからな。お前と同世代に見えそうな女どもを見てみろよ。背中に羽が生えたみたいに働いてるぜ」


「私、そんなにヘナチョコかな」


「類を見ねえヘナチョコだ」


「そんなにかあ」



ライラはがくりと項垂れる。

ブラムの嘲笑が、ライラの後頭部に流れ落ちた。


ところが、突然。

ブラムの笑い声が止まった。

同時に、ピリッとした空気がブラムから流れ込んできた。

どうしたのだろうと、ライラは顔を上げる。

直後、ライラもまた表情を硬くさせた。



「ランファ様」



低い声が、ライラを打った。

大柄の厳めしい男がライラの前に立っていた。



「……どちら様でしょうか」


「これは失礼。自分はソウカン様の使いである」


「ソウカン様の」


「我が主ソウカン様より手紙を預かっておる」


「……手紙を渡すために、わざわざ、ここへ?」


「無論。急ぎの用であろう」



そう答えた厳めしい男が、懐から手紙を取り出した。

ソウカンからの手紙は、貴族らしく仰々しい装飾が施されていた。

ライラは手紙の封を切るべきか迷ったが、厳めしい男が催促するように咳払いした。

仕方なしと、ライラは封を切って手紙を読んだ。



「……えええ、本当に今からですか」



ライラはつい、顔をしかめた。

ソウカンからの手紙に、今すぐ屋敷へ訪ねてくるよう書かれていたからだ。



「馬車を用意してある」


「いえ、準備くらいさせてほしいのですが。服だって、こんなですし」


「動きやすそうな服ではないか。品も悪くない。問題ないだろう?」


「そんなに急かすような用事なのですか」


「自分はただの使いだ。主の御意も、手紙の内容も知らん」



厳めしい男がぴしゃりと言い放った。

貴族様に逆らうなと言いたげだ。


ライラはちらりと、ブラムのほうを見た。

ブラムもまた面倒臭そうな表情だった。

しかしソウカンの要請を断れるはずがないと、悟っているようだった。

ライラに向けて首を横に振ったブラムが、半歩、ライラの傍へ寄った。



「……分かりました。今から参ります」


「宜しい。ではこちらへ」



厳めしい男が、招くような仕草をした。

男の後ろには、貴族御用達の馬車が停まっていた。


ライラは立ち上がり、振り返る。

いつの間にか、ライラと共に清掃活動をしていた人々が集まっていた。

誰もが心配そうな面持ちで、ライラを見ていた。



「すみません。用事ができてしまって」



ライラは深々と頭を下げた。

すると皆がライラの傍へ寄り、首を横に振った。



「ランファ様、お疲れでしょうに……。私たちがあの男を追い返しましょうか」


「そうだそうだ。あいつはなんだかよく分からんが、妙に偉そうで。ランファ様とは大違いだ」


「行く必要はありませんよ、失礼な奴だ」



皆が口々に言う。

当然その言葉は厳めしい男の耳に届いていた。

厳めしい男が、ギロリと人々を睨む。

数人が怯んだが、多くの者が血気盛んにも厳めしい男へ睨み返した。


ライラは騒動が起きそうだと思い、人々に向かって再び頭を下げた。

それから厳めしい男に対しても礼をした。



「きっと大事な用があるのだと思います。皆さん、次は最後までご一緒しますので。どうか今日はこれで」



ライラがそう言うと、人々はぴたりと口を閉ざした。

納得はしていなさそうであったが、ランファ様が言うのならと、引き下がってくれた。



「それでは使いの方、参りましょう。もちろん私の従者も同行します。構いませんよね?」


「問題ない。それでは早く馬車へ」



厳めしい男がそう言って、馬車の扉を開けた。

ライラは小さく頭を下げ、ブラムと一緒に馬車へ乗り込んだ。

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