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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十五章 黄金の時
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朝。良い人のふり


早朝のファロウ。

やや冷たい空気が、ライラの胸をつつく。



「まさかライラがこんなに早起きになるなんてね。もしかしてメノス村以来じゃないの?」



ライラの肩の上で、ペノが小さく笑う。

たしかにそうかもしれないと、ライラは苦笑いした。

眠気眼を擦りつつ、朝の散歩をしているからだ。

それも、今日だけではない。

ここ数日、毎朝早起きして、散歩をつづけていた。


早朝の散歩は、クナドの支店長からの依頼であった。

正確には、早朝と夕暮れ前、街の中を散歩をしてほしいという内容だった。


散歩をする理由は、単純だった。

街の人々の、ランファへの心象を良くするためである。


ランファは現状、ファロウの人々の視線を集める存在となっていた。

老人病の流行を食い止めるため、奮闘しつづけているからだ。

そんなランファが、ただの金持ちではなく、誰とでも普通に接する女性だと皆が知ればどうか。

街の人々はランファに対し、さらなる好感を持ち、さらなる支持をしようとするだろう。



「でも私、そんなに良い人な演技なんてできないですけど」


「そんなことしなくていいんじゃない? 普通でいいんだよ、ふつーで」


「そうなの?」


「立派な人って近付き難いじゃない? それより普通なほうが声かけやすいし、友達になりたいって思ったりするよ」


「……私、友達付き合い下手なんだけどなあ」


「それがまた可愛らしいって思うかもしれないよ。馬鹿っぽくて」


「……一言多くない?」


「たまにはね!」



ペノが揶揄う。

ライラは引っ叩きたかったが、ぐっと堪えた。

早朝の散歩中。まばらではあるが、人の目があるのだ。

ウサギを虐待しているなどと思われたら、一大事である。


そうやって我慢している最中。

街の女たちがちらほらと声をかけてきた。

ランファと知ったうえで近付き、声をかけてくる者。

ランファと知らずとも、なにかを感じ取って近付いてくる者。

遠くから、声だけをかけてくる者。


ライラは女たちに笑顔を返し、一言二言言葉を交わし、歩いた。

立ち止まって話をすることは、しなかった。

クナドの支店長から、そうするようにと念押しされていたからだ。



「ランファ様、うちの父を治してくださり、感謝します」


「私の夫は先日入所しました……、どうか、どうかお願いです。助けてください」


「あの娘が、ランファ様? まさか、まさか」


「ランファ様、ランファ様。どうか、どうか――」



四方八方から、声が届いた。

日に日に多くなっているなと、ライラは思った。


ライラに声をかけてくる女たちはほとんど、老人病に係る者ばかりだった。

だから皆、感謝を伝えたり、助けを求めたりしてくる。

まるで神様に祈っているようだった。

ライラは笑顔を貼り付けたまま、心の内では、ぎゅっと顔をしかめた。



「ランファ様、そろそろ参りましょう」



声が、ランファの背を小突いた。

ほっとして、振り返る。

後ろには、ふたりの男女がいた。

ふたりはクナド商会の人間で、ライラの護衛として付いてきてくれていた。



「……ええ、そうですね。皆さん、ごきげんよう」


「ランファ様、また、どうか、どうか――」


「ええ、もちろん」



手を伸ばしてきた老女に、ライラは声をかけ、手を握った。

乾いた、手のひらだった。

その感触に、ライラはぞくりとした。

しかしぐっと堪え、老女に笑顔を向け、別れた。



「……散歩、どころではないですね」



護衛の女が言った。

護衛のふたりは、どちらも一般人らしい服装をしていた。

普段はライラから少し離れ、一般人を装い、護衛してくれている。



「ふたりにはご迷惑をおかけしています」


「迷惑など、ありません」


「絶妙なところで声をかけてくれて助かりました」


「はは、まあ、ほんの少し、困っているように見えたので」


「ふふ、そうですね。普段はその、引き籠りなので」



ライラは小さく笑う。

護衛のふたりが苦笑いしつつ、馬車を呼んでくれた。

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