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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十五章 黄金の時
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商人たちとの会合


商人たちの会合は、クナド商会の商館で行われていた。

クナド商会所属ではない商人たちも、表向きはクナドの一員であるからだ。

ライラもクナド商会に多額の投資をしているため、クナドの商館を出入りしても不思議ではない。



「お待ちしていました」



クナド商会の支店長が、ライラに礼をした。

つづいて他の商人たちも、ライラに向かって深く礼をした。

まるで王様にでもなったようだなと、ライラは思った。


席に着くと、商人たちが話し合いを始めた。

というより、ライラが着く前から話が進んでいたらしい。

あれはこれと下されていく決定が、目前で繰り広げられるだけであった。



「診療所とは別の話も進めなければなりませんな」



商人のひとりが言った。

向かい合っていたふたりの商人が頷いた。



「老人病は収まりつつあります。我々の役割は終わろうとしています」


「その通り。しかしファロウでの商いは始まったばかり」


「せっかく築かれた土台を無くしてしまうのは勿体ない」



商人たちが口を揃えて言い、ライラのほうをチラリと見た。

ライラは目を細め、クナドの支店長へ視線を移した。



「支店長はどうお考えですか?」


「私も皆さんと同様に考えています」


「でも、ファロウ郊外の区域は一時的に許可を貰っただけです。ずっとは使えませんよ」


「そこは、使えるようにしていくべきでしょう」


「どうやってです?」


「ファロウ中央よりも、美しい街を造っていくのです」


「ですから、そんな許可は貰えませんよ。老人病対策のためだけの許可なのですよ?」


「であれば、老人病対策の街であれば宜しい」



そう答えた支店長が、ファロウの街の地図を指差した。

その指の先は、街の中心部より外れたところだった。



「ファロウの街では今、下水溝の改築工事が進んでいますよね」


「そうですね。あまり……進捗は良くないですが」


「その通り。なかなか工事が進んでいません。それはなぜでしょうか? 住民たちが反対しているからです。下水溝の工事をすると、いつも通りの生活を送れなくなりますからね」


「……裏手の下水溝に生活排水を投げ捨てるのが当たり前でしたからね。下水管を地下に通してしまったら、いつも通りのことができず面倒臭いと思うでしょうね。……まあ、分かっていたことですが」


「そう。この反対は予想できたことでした。だからこそ、ファロウの指導者たちはここに手を付けなかったわけです」



支店長が片眉を上げ、地図上の、街の中央を指差した。

ライラは支店長の言葉に頷いた。

とはいえ、街の指導者である貴族たちを謗るわけではない。

むしろ同情すら覚えた。



「完成された街の地下をひっくり返すなんて、お金だけで解決できることじゃないですものね」


「ええ、手を付けられないのは仕方がない。指導者も、住民も、どうしようもなかった」


「……でも、それが原因で老人病が流行ったわけですから、仕方ないでは済まなくなりましたね」


「そうなりました。ですから我々はそこへ付け込みます」



そう言った支店長が、地図上のファロウ郊外を指差した。

ライラたちが整備している新区域の位置だった。


新区域は、当初予定していたよりも広くなっていた。

居住区だけでなく、大規模な商業区画も計画に加えられている。

商業区画には、ライラには意図の読み取れない広大な空白地もあった。

それらの区域を描いた地図を、支店長が点々と指差していった。



「我々が築いたこの郊外の区域には、最初から下水管を通しておきました。現状はロウカウ河に下水を垂れ流しですが、簡易の下水処理設備を造る計画も立てています」


「下水処理まで考えていたのですか」


「もちろんです。それらはすべて老人病対策となります。そうすることで、現在得られている一時的な許可を延長させられるはずです」


「延長してる間に、この区域を発展させて……取り潰さないようにするわけですか」


「それだけではありません」


「まだあるのです?」


「先ほども申し上げた通り、老人病対策を施した美しい街を造りあげていきます。そしてそれを売っていくのです」


「……売るのですか? 街を?」


「正確には、手本となる美しい街という形を売ります。清潔で景観の良い区画を整備すれば、多くの金持ちが殺到するでしょう。その中には貴族も含まれるに違いありません」


「金持ちたちが気に入れば、新区域も売れるし、街の中心部も同じような街造りが進む……ということですか」


「そうなるはずです。……いえ、そうなるようにすると言うべきでしょうか。様々な裏工作がこれから必要になります」



支店長がにかりと笑った。

しかしライラは怪訝な表情を浮かべた。

どうにも気が進まないからだ。



「私の個人的な考えを言ってもいいですか」



ライラが呟くように言った。

すると商人たちが静まりかえった。

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