囁きが染む
「お前が来るまで、気丈に起きてやがったんだ。寝てる状態で顔を合わせられねえってよ」
「……そうだったんだ」
「ま。こんだけ静かに寝れるようになったんだからよ、もう心配ねえだろ」
「そう、ですね」
「アテンも体力が戻れば会えるようにならあ。もう少し黙って待ってろ」
「うん。ありがとう、ブラム」
「……あ、ああ??」
「私も頑張ってこなくちゃ。もう少し、仕事してきますね」
「っは! こいつあ珍しいな。気味が悪すぎて、今度は俺が寝込んじまいそうだ」
「やめてくださいよ、もう」
「冗談だ、さっさと行けよ。やる気があるうちにやれることやってこい」
「うん、ありがとう」
ライラはブラムに礼を言い、翻った。
翻る直前、ブラムがほんの少し照れているように見えた。
可愛いところもあるのだなと、ライラは頬を緩ませた。
その日より、ファロウに陽が射した。
老人病による死者は、ライラの診療所を中心にして減りはじめていった。
依然として病は拡大していたが、それでもファロウの人々は安堵した。
もはや老人病が死に至る病ではなくなったからだ。
◇
◇
◇
「なかなかの結果ではないか」
報告書に目を通していたソウカンが、ニヤリと笑った。
報告書を携えてきた男が、小さく頷いた。
「ランファ様の“街づくり”も順調かね?」
「なかなかの繁栄っぷりです」
「ほほう! それは期待通り」
「そろそろ次の準備が必要かと思いますが」
「そうかもしれん。まあ、急がず、じっくりと始めよ」
「御意に」
報告書を携えてきた男が、礼をして退室した。
間を置いて、ソウカンが再びニヤリと笑った。
報告書に記されているランファの記録と、似顔絵を見て。
その似顔絵の下に、もうひとつ、別の報告書が揺れた。
「はは。まったく期待通りだな」
ソウカンが報告書を書卓に置き、窓の外を眺めた。
窓からは、ライファが拡げている新しい区域が見えた。
そこを往来する人の姿までは見えない。
しかし活気ある風が吹き流れていることは、見て取れた。
その風に、ソウカンは手招きしてみせた。
じわりと囁く。
囁き声がファロウの街に染みた気がして、ソウカンは再び笑うのだった。
「囁きが染む」の章は、これで終わりとなります。
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