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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十四章 囁きが染む
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早馬


ところがペノが、ケロリとした表情で笑った。

次いで、窓の外をちらりと見た。



「それはそうだけど、なんとかなるでしょ?」


「どうしてですか」


「今ね。ライラの家のほうからこっちへ、早馬が来てるんだよ」


「早馬……? どうして?」


「グナイが治った、とかじゃない? 今朝は具合が良さそうだったしね」


「は、早く教えてくださいよ!!」



ライラはペノの耳を掴み上げ、放り投げた。

事務職員たちに馬車を呼ばせ、飛び乗り、駆けさせた。

慌てるライラに、事務職員も御者も首を傾げたが、ライラは気にしなかった。

今のライラにとって、なにを置いても大事なことだったからだ。


ライラの邸宅へ向かう途中。

ペノが言った通り、早馬の使いと出会った。

使いからの知らせは、ペノが言った通り、グナイのことだった。


邸宅の前へ着くと、使用人のひとりがライラの帰りを待っていた。

ライラが馬車を降りると、待っていた使用人がライラへ駆け寄ってきた。



「早馬を出したばかりですのに」



使用人が首を傾げつつ、ライラの後ろへ付いた。

そうして邸宅へ向かいながら、グナイが快方へ向かっていることを教えてくれた。



「グナイには会えるの?」


「たぶん大丈夫でしょうと、診療所の方が仰っていました。私も遠目で見ましたが、顔色が良くなっていると思いました」


「アテンは、どうですか」


「アテンさんはまだ良くなっていませんが……やはり顔色だけは少し良くなったと」



そう言った使用人が、グナイの療養部屋を指差した。

その部屋は、これまで使っていたグナイとアテンの部屋とは違っていた。

ライラと面会できるよう、グナイだけを別の部屋へ移したのだろう。

部屋の前にはブラムがいて、帰ってきたライラを出迎えた。



「ずいぶん早く帰ってきたじゃねえか」


「当たり前ですよ」


「ガンカに仕事を押し付けてきたんじゃねえだろうな」


「元から押し付けているので平気です」


「そいつあご立派なこった。給金を倍にしてやれよな」


「分かってますよ。それよりグナイは」


「ああ、中で待ってるぜ。だけど静かにしろよな。まだ病人なんだからよ」


「それも分かってますってば!」



ライラは頬を膨らませ、グナイの部屋へ飛び込んだ。


グナイの療養部屋には、診療所の所員と、ライラの邸宅の使用人が数人いた。

その中心に、ベッドに横たわっているグナイがいた。

近寄って見ると、グナイがライラに気付いて視線を向けた。



「……ああ、ライラ様」



しゃがれた声が、グナイの口から漏れた。

グナイは病の名の通り、年老いた顔になっていた。

しかし聞いていた通り、顔色だけは良くなっていた。

素人目でも、快方に向かっていることがはっきりと分かる。


ライラはグナイの手を取り、ほっと息を吐いた。



「心配しましたよ、グナイ」


「長らくお食事の用意を出来ず、申し訳ないことで」


「ええ。早く復帰してもらわないと。そろそろブラムの料理は飽きましたからね」


「おい、聞こえてんだぞ、馬鹿ライラ」


「馬鹿って言わないで」



ライラは部屋の入り口にいるブラムを睨みつけた。

ブラムが両手のひらをライラに向け、肩をすくめた。

その様子を見て、グナイが笑った。



「アテンも今朝、調子が良さそうでした。ついでに、ずいぶん痩せましてね。最近は少し太り気味だったもんだから、丁度良かったってもので」


「アテンが聞いたら怒りますよ」


「はっは、たしかにそうかもしれませんや。これは内緒にしてくださいよ」


「どうしましょうかね?」


「あいや、ライラ様。勘弁してください」



グナイがもう一度笑った。

しかし疲れたのか。パタリと目を閉じた。

急に静かになったので、ライラはぞくりとした。

しかし間を置いてグナイが寝息をたてたので、ライラはほっと胸を撫で下ろした。

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