権力者へ
「……それだけ、というわけではないですよね」
ライラは自信に満ちた支店長を見据えた。
支店長が大きく頷いた。
「大金を動かし、老人病を治していく過程で、ランファ様にはひとつ、大きな仕事をしていただきたいのです」
「どんな仕事ですか」
「ずばり、ファロウの街での、発言力を得ていただきたい」
「……えええ、それってつまり」
「ええ、つまり、貴族並の権力者になっていただきたいと、そういうわけです。この区域を足掛かりにして」
「……そんなこと、できます……?」
「できないと思いますか? 我々はクナド商会ですぞ。そしてランファ様は……あのライラ様のご親族。あなた様を名士として担ぎ上げ、高台に据えることなど、我々には容易いことです」
支店長がにかりと笑った。
支店長が言う通り、クナド商会は巨大すぎる大商会となっていた。
いずこかの街では、領主を押しのけて実権を握っているという噂も聞いている。
そんなクナド商会にとって、ランファの存在は大きなものだった。
かつてのクナドと商会の礎を築いた、ライラの末裔だと信じているからだ。
信じる理由のひとつは、クナドから受け取った銀の首飾りだった。
この首飾りがある限り、クナド商会にとってのランファは大貴族よりも貴い。
ランファを貴族のように担ぎ上げることに、躊躇いなどないだろう。
「しかし、その件は慎重にお願いします」
ライラは眉根を寄せて言った。
「ソウカン様はきっと、容易くありません。私と、私の周りに最大限警戒していると思います」
「それほどに強かですか」
「私はそう感じます。他の貴族なら何とかなると思うますが」
「では出来るだけ小さく、丁寧に動きましょう。焦って損じることがないよう、少しずつ積み上げていきましょう」
「そうしてください」
ライラが頭を下げると、支店長とその傍にいた商人たちも頭を下げて返礼した。
それからしばらく、今後の商取引の話になった。
商売の細かなことが分からないライラは、要所だけ説明を受け、あとは支店長に任せると伝えた。
支店長が快く引き受けた。
次いで、今後の細かな打ち合わせはガンカともしていくと教えてくれた。
「なんだか王様になった気分だね!」
支店長たちと別れたあと、ペノが楽しそうに言った。
ライラもそう思っていたが、口にはしなかった。
今はまだ、浮かれている場合ではない。
「老人病が治っていくまでは、私たちはまだまだ綱渡り状態なのですよ?」
ライラは顔をしかめた。
老人病を収められなければ、ライラはただ悪戯にファロウを引っ掻きまわした愚か者になる。
そうなればソウカンは、すぐにライラを切り捨てるだろう。
最悪、ライラたちを街から追い出すかもしれない。