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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十四章 囁きが染む
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新たな礎


人の波が押し寄せてきていた。

老人病の患者だけではない。

ライラの下に、多くの働き手が集まってきていた。

それは当初の予定よりも明らかに多くなっていた。


準備していた仮設住居では働き手を収めきれない。

ガンカが深刻そうに言ってきた。

ガンカが言うなら余程のことなのだろうと、ライラは思った。

ならばと、ライラは仕方なくソウカンを頼ることにした。


ソウカンも困ったような表情を見せたが、助け舟を出してくれた。

ファロウの街の外に、仮設住宅を建てる許可を出してくれたのだ。

そのおかげで、ファロウ郊外に賑やかな区域が築かれていった。



「クナド商会の支店長が来てるみたいだよ?」



ファロウ郊外の居住区を見ている最中、ペノが後ろを振り返って言った。

ライラも振り返る。

クナド商会の支店長がライラに向かい、手を振っていた。



「いやはや、大きな事業となりましたな」


「お金がかかるばかりです」


「これほど多くの人が動いているのです。そのうちに大きな利益も出るでしょう」


「だとしても、この区域を維持する間は、ソウカン様へ使用料を払わなくてはなりません」


「でしょうな。しかしそれも、すぐになんとかなりますぞ」



支店長が頼もし気に胸を張った。

そうして後ろを向き、片手を少し上げた。

それは合図だったようで、多くの男たちが駆け寄ってきた。

彼らは皆、ファロウか、ファロウ近郊の街の商人たちだった。



「彼らは皆、この区域でこれから商いをする者たちです」


「全員、クナド商会の商人なのですか?」


「幾人かは。しかし半数以上は別の商会の者たちです」


「別の……?」



ライラは首を傾げた。

別の商会が入ってくるとは思っていなかったからだ。

クナド商会だけでこの区域を独占していた方が儲かるのではないか。

ライラは支店長を訝しむように視線を送った。


すると支店長が小さく笑った。



「独占するのは、必ずしも良いことばかりではありません。時には敵と協力するほうが大きな利益を生むのです」


「というと」


「得意不得意というものは、どこにでもあります。販路も違うし、協力者も皆違う。それらをすべて噛み合わせれば、独占するよりも数倍の利益になると思いませんか?」


「そういうものですか。私は商人ではないので……あまり分かりませんが」


「後ほど、分かるように説明しましょう。今はここにいる者たちの顔だけでも覚えておいてください」



そう言った支店長が、集まった商人たちにひとりひとり挨拶をさせた。

ライラは彼らの顔も名前も覚えられる気がしなかった。

しかしとりあえず微笑みつつ、返礼していった。


挨拶を交わした商人のうち幾人か、ライラに対して好意の色を見せてきた。

こういうのは久しぶりだなと、ライラは心の内で苦笑いした。



「それで。どういう方法で利益を得るのですか?」



挨拶を終えたあと、ライラは支店長たちを仮事務所に呼んだ。

ファロウ郊外の仮事務所には、ガンカが集めた事務職員が数人詰めていた。

ライラは職員たちの邪魔にならないよう、奥の部屋で支店長に尋ねた。



「簡単に言いますと、この区域を小さな町と見立てて商売をします」


「ここを? それほど広くはないですが……」


「広くなくとも、ファロウの管轄からやや外れた特殊な区域です。こんな都合の良い場所はない」


「ここで好き勝手出来るとも思えませんよ。ソウカン様の目がきっと光っていますから」


「もちろんです。好き勝手はしません。しかしファロウの外であり、ソウカン様という貴族の名のもとにある程度の自由も与えられていますよね。その自由は使い切るべきだと思いませんか」


「たとえばどんなことですか?」


「ひとつは、ここに商売の拠点を作ります。ファロウの中の拠点とは別に、です。商売の名目は当面老人病対策です。それに類するあらゆるものを流通させていこうと思います」


「なるほど……?」


「もちろん街中同様の税は取られるでしょう。しかしそこは商人の知恵です。最低限の税を払いつつ、最大限の取引を行っていきます」


「脱税をするということですか」


「いいえ。彼らを皆一時的にクナド商会の傘下にするのです。そうすれば税を払うのはクナド商会だけ。彼らが税金を払うことはない。そこから得た利益は早々に計り知れないものとなります」


「悪いことしているみたいに思われそうですが……」


「老人病対策のため迅速な取引を行うのに必要だとすれば宜しい。実際その通りですし、嘘ではありません」



支店長が自信に満ちて言った。

どうやらこれまで、似たようなことをやってきた経験があるのだろう。

微かな迷いも見られなかった。

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