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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十四章 囁きが染む
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消えない寄付金


ライラの診療所には、続々と多くの老人病患者が集まった。

病人を多く収容できるからという理由だけではない。

診療所そのものの評判も高いためだ。


入院患者を収容する建屋内が、清潔。

それが高い評判の、一番の理由だった。



「死者も出ていません。この先、患者がさらに殺到しますよ」



ガンカが苦笑いして言った。

嬉しいことなのだが、さらに忙しくなるのだ。

手放しでは喜べない。



「でも、まだ治った人はいませんよね」


「まだいませんね。ですが、悪化しない患者が多い。これだけでも違います。評判を聞いて、一部の金持ちから寄付までされていますよ」


「それは助かりますね」



ライラは一応、喜ぶ演技をしておいた。

ライラがいくらでもお金を出せるということを、ガンカは知らないからだ。

多少の寄付など要らない、などという態度を取れば、どうなるか。

頭のいいガンカのことだ。

ライラの金の出どころの違和感に気付くかもしれない。


ライラは笑顔を見せたまま、寄付金を見た。

寄付金はやはり、さほど多くはなかった。

しかしふと、ライラは首を傾げた。

手に取った寄付金が、消えて無くならなかったからだ。



「まあ、お前の投資に対する寄付金ってわけじゃねえからだろ」



首を傾げながら邸宅に帰ったあと。

夕食の席で、ブラムが言った。



「どういうこと?」


「お前の投資に対する返礼ってんなら、消えちまったかもしれねえ。儲けに繋がっちまうからな。だが、お前の診療所のためだけの寄付ってんなら消えねえかもしれねえ。診療へのただの感謝だからよ」


「そういうものですか」


「さあな。俺には細かいことはわかんねえよ。そこのクソウサギが決めたルールなんざ真面目に考えたくもねえ」


「それはそうですね」


「ちょっとお二人さん? 陰口は陰で言ってくれないかい?」


「陰口じゃねえ。ただの悪口だ」


「ひどいよ、もう!」



ペノがガッカリしたように両耳を折った。

ブラムが呆れ顔を見せ、ペノの耳を指先で弾いた。

そうしてからブラムが、ライラを指差した。



「あとはよ。その寄付金ってのは、お前に対する一方的な欲かもしれねえ。貴族以上に羽振りの良いお前だからな。縁を結んでおきてえってわけだ。そういう考えの寄付金なら、消えねえかもしれねえな?」


「……それって使いづらくないですか」


「使わなくてもいいだろ。取っておけよ」


「それでいいのでしょうか」


「いいんだよ、そんなもん。この先、金以外の何かで役に立つかもしれねえぞ」


「たとえば……?」


「知らねえよ、そんなもん。悪巧みはお前が得意なことだろうがよ。俺に聞くんじゃねえ」


「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ、もう」



ライラは口を尖らせる。

傍で一緒に食事をしていたペノも、ブラムと一緒に笑った。

それから、とんとライラに向き直り、両耳を左右へ振った。



「とりあえずライラ」


「はい?」


「その悪巧みのついでに、そろそろあの貴族の手の内から逃げたほうが良いんじゃない?」


「ソウカン様のことですか? このまま利用するのではなくて?」


「貴族を利用するなんて、ライラには無理な話だよ?」


「……どうせ私はポンコツですよ」


「それはそうなんだけど、それだけじゃなくてね? 人を利用するなんてのはお貴族様のほうが一枚も二枚も上手な気がするでしょ?」


「私だって長く生きてきたから、少しは」


「フワフワと長生きしてるだけじゃあ賢くなれないんだよ、お嬢さん」



ペノが呆れ顔を見せ、両耳を折った。

冗談ではなく、本当に呆れているようだった。

まあ確かに長生きしてきただけだものねと、ライラはこれまでの人生を振り返った。

旅ばかりして、学問を修めたこともないのだ。


しかし――



「でも、お金の使い方は覚えましたよ」



ライラは自信を持って言った。

毎日のように手のひらから大金を溢れさせてきたのだ。

お金でどんなことができるのか、だいたいは分かる。

それはペノも分かっているようで、ライラに向かって深く頷いてくれた。



「そうとも。これまで湯水のようにお金を使ってきたんだ。ライラの周りにはお金で繋がるご立派なお仲間がたくさんいる。そのお仲間を動かすお金の使い方は、ソウカンよりも知っているだろうね!」


「言い方あ」


「はは。まあ、とにかくそれで、ソウカンの手の内からは逃げたほうがいいと思うよ?」


「そんなに危険でしょうか、ソウカン様は」


「念のためだよ、ライラ。持てる力は手に入れて、あらゆる逃げ道は手に入れたほうがいいってこと。ただでさえ、こんな状況なんだからね」


「そうかもしれませんね……」


「ま、今すぐってわけじゃないけどね。考えておいたほうがいい」


「アテンとグナイが良くなってきたら、考えようと思います」



そう言ってライラは、後ろに顔を向けた。


アテンとグナイが休んでいる部屋。

浄化の魔法道具の光が、微かにこぼれ出ていた。

光と一緒に、アテンの息苦しそうな声も漏れて聞こえていた。

しかしその声は、数日前より良くなっている気がした。


ブラムが言うには、アテンの病状悪化は止まったらしい。

回復こそまだ見られないが、命を落とすことはないと、ライラの診療所の所員も教えてくれた。

グナイも同様で、アテンより病状が悪化せず、落ち着いているという。



「もう少しすりゃあ、会えるようになるからよ」



ライラの心配を察して、ブラムが言った。

ブラムへ向き直ると、ブラムの大きな手がライラの頭の上へそっと乗った。



「アテンとグナイのことは気にしねえで、さっさと悪巧みを考えておけよ」


「だから、言い方ああ」



ライラはブラムの手を払い除け、思いきりこぶしを突き出すのだった。


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