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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十四章 囁きが染む
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無くしたくない


新しい診療所の隣の建屋に、大荷物が届いた。

荷物の中身は、大釜であった。

大釜はひとつだけではない。

十以上の釜が、建屋の中に並べられた。



「ランファ様、こちらはなんでしょうか?」



中年の小太りの男が首を傾げた。

男は大釜ではなく、大釜の隣に置かれた木箱を見ていた。



「この中身は、石鹼です」



ライラが答えると、小太りの男が再び首を傾げた。



「石鹸、ですか?」


「エルオーランドの南東部では一般的な、身体を洗う道具ですよ」


「ほほう、初めて見ました」


「……まあ、少し高価ですし。ファロウで使っている人はいませんからね。でもこれからは使いつづけてもらいますよ」


「なるほど、そのようにいたします」



小太りの男が数度頷き、木箱を開けた。

木箱に詰め込まれた大量の石鹸。

それを手に取り、小太りの男がメモを取っていく。


小太りの男は、ガンカという名の、ファロウ出身の人であった。

ガンカは見た目通りに体力がなく、仕事を転々としていたらしかった。

しかし頭の回転が速く、気配りのできる男だと、ブラムが連れてきた。


ライラはブラムを信用して、ガンカを重用することにした。

診療所と、診療所に係る様々な管理をガンカに任せていった。

「少し仕事量が多すぎたかな」と、ライラは心配したが、すぐに杞憂と知った。

ガンカは予想以上によく働き、診療所にかかわる細かな業務まで把握していった。



「ファロウの商館の下っ端とは思えねえだろ?」



その日の夕食後、ブラムがしたり顔で言った。

最近ブラムとは、夕食と食後のわずかな時間しか会えていない。

このわずかに苛立ちを覚えるしたり顔も、今となっては少し嬉しい。



「これで私は、本当に何もしなくても良さそうです」


「ちったあ働けよ」


「働かなくてもいいように、いつも頑張ってるのですよ?」


「努力の仕方が違えんだよなあ」


「すごいでしょう」


「いや、褒めてねえんだよ」



ブラムが呆れ顔を見せた。

ライラは笑顔を返し、ブラムに向かって手を振ってみせた。


こうしたブラムとのやり取りも、嬉しいことだとライラは思った。

これまでの何気ないことに、幸せが潜んでいたのだと気付く。

気付いたからには、無くせない。

アテンも、グナイも。ブラムとの旅も、無くしたくないとライラは願った。

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