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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十四章 囁きが染む
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面倒事は押し付けたいな


クナド商会の動きは、予想通り早かった。

ファロウの支店に連絡を取ると、すぐに支店長自らライラの邸宅へやってきた。

ライラはその場で、幾つかの事業に対して投資を約束した。

すると支店長の顔色が驚くほど明るくなった。

まるで餌を前にした犬のようだと、ライラは心の内で苦笑いした。



「必要な物は、寝台と、魔法道具で宜しいですか?」



犬のような支店長が、目を輝かせて言った。

ライラは少し考えたふりをしたあと、目を細めた。



「働き手も必要です」


「ほう!」


「医学に詳しい人を、数人。それ以外はよく働く人を、何人でも」


「……ほう、何人でも?」


「ええ、何人でも。身分は問いません。よく働いてくれるなら、奴隷の方でも」


「奴隷でも!?」



支店長が驚きの声をあげた。

一般人を働き手として送るより、奴隷を送るほうが手間がかからないからだ。

しかも、奴隷のほうが安い。



「働き手を融通していただければ、どなたであっても一律の手数料をお支払いします」


「誰でも、と??」


「問題ありますか? ちなみに手数料はこれくらいで……」



言いながらライラは、支店長の目を盗んで、袋に手を入れた。

袋の中で「お金に困らない力」を使う。

すると金貨が十五枚、袋の中へこぼれ落ちた。

ライラは袋の中に現れた金貨を支店長に見せ、微笑んでみせた。



「こ、こんなに? 誰に対しても??」


「誰でも、です。宜しいでしょうか?」


「も、も、もちろんです!!」



支店長が即答する。

ライラは小さく笑い、金貨を支店長に手渡した。


つづけてライラは、他に必要な物を幾つか要求した。

主な追加の要求は、働き手の生活必需品であった。

それらを十二分に用意しておけば、働き手の士気が上がるだろう。

次いで、診療所に必要な細々とした品も要求した。

それらに対し、支店長は多少困惑の色を見せたが、すべて承諾してくれた。



「自分の商会を作ったほうが早くない?」



支店長が帰ったあと、ペノが呆れ顔で言った。

たしかにそうかもとライラは思ったが、すぐに首を横に振った。



「私には商才がありませんからね」


「それさえあれば、今頃街ひとつくらいは作れただろうにね」


「そんなの要らないですよ」


「でも今回は、同等のことを始めようとしているよ?」


「……そう言われてみれば、そうかも?」



ライラは眉根を寄せ、宙を見上げた。


ライラが始めようとしていること、それは診療所の開設だけではなかった。

診療所で働く所員と、所員を支える組織も作ろうとしていた。

だからこそ、多くの働き手が必要であった。



「まずは診療所の所員と働き手たちの仮設住居を管理する人が必要ですね」



ライラは眉根を寄せたまま言った。

考えれば考えるほど、面倒臭いと思いながら。

それを察して、ペノの両耳がライラの頬を打った。



「下水道を整備する人もね? とにかく街を綺麗にしないとね」


「そこまで勝手にしたら、領主に怒られないでしょうか?」


「そこはソウカンが口添えすれば何とでもなるでしょ? お金を出すのはライラなんだから平気平気。知らないけど」


「では、それはなんとかなるとして……、あとは、物資を運んだり売買してくれる商人さんも必要ですね」


「じゃあ、宿泊施設もあったほうがいいねえ」


「他にもたくさんありそうですね」


「あるよねえ。これはもう、今までで一番お金を使うねえ」


「……力を使い過ぎて、何度か体調を崩しそうですね」


「間違いないね!」



ペノが愉快そうに笑った。

ライラは微かな不安に頬を歪める。

しかしぐっと堪え、自らの頬を打った。

体調を崩す程度のこと、恐れている場合ではない。

お互いに出来ることをする。そう、ブラムと約束したのだから。



「……最低でも、魔力が溢れすぎないようにしないと」


「分割払い作戦でいくしかないね!」


「面倒臭いのですよね、それ」


「ボクも面倒って思うけどね。だけど、うん、まあ、面倒でもやらないと、あとでブラムに怒られるよ?」


「そっちの方が面倒なのですよね」



ライラはがくりと項垂れる。

やはり面倒事が多いと、先行きが不安になった。

となれば、である。

ライラがまずやるべきことは――



「……やっぱり、最初に必要なのは管理をする人ですね?」



面倒事を振り払わんと、ライラは顔を上げた。

その表情を見て、ペノが呆れ顔を見せた。



「管理人を立てて、楽しようとしてるでしょ?」


「……そうではないですよ。ただ」


「ただ?」


「ただ……面倒事を押し付けたいなと思うだけで」


「それを楽しようとするって言うんだよねえ。良かったね、ここにブラムがいなくて。いたら今頃、ライラの頭に大きなこぶが出来ていたよ?」


「ですよねー」



ライラは小さく笑い、人差し指を立てて口元へ寄せた。

その仕草に、ペノもくっくと笑うのだった。

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