使えるものは、使うべき
ライラの診療所は、内装の手直しがある程度終わっていた。
しかし患者を収容するには、なにもかも足りなかった。
一番の不足は、寝台だった。
ファロウの街は今、寝台が不足していた。
老人病の患者のため、どの診療所も寝台を発注しているからである。
「大金を払って、別の街から仕入れるしかないね」
ペノが面倒臭そうに言った。
たしかにそれしかなさそうだと、ライラは頷く。
「浄化の魔法道具も買わないといけませんね」
「そっちは希少品だから、もっと大変だねえ」
「揃えられるでしょうか……」
「大丈夫でしょ」
「どうして?」
「クナド商会に頼めばいいじゃない?」
ペノの言葉に、ライラははっとした。
たしかにクナドの大商会を頼れば、なんとかなる。
クナド商会とは、ウォーレンに移ってからも連絡を取っていた。
ただ、最近は巨額の投資をすることがなかった。
正直、クナド商会のことは頭の片隅の、さらに隅へ追いやられていたからだ。
いい機会であるから、今回の取引ついでに投資をしておいてもいいだろう。
そうすれば、希少品といえどなんとかしてくれるに違いない。
いや。
それ以外のことも――
「……んー、悪い顔してるねえ」
ペノがにやりと笑った。
ライラは再びはっとして、自らの頬を手のひらで隠した。
「使えるものは、使うべき。でしょ?」
「それは、そう!」
「ソウカン様に借りを作ったままにはしておけないですからね。そろそろお返ししないと」
「それはいいね! とうとうお貴族様を手玉にとろうって気持ちになってくれたんだね! ボクは嬉しいよ!」
「いえ……そこまで嫌な人になるつもりは……」
「ボクは嬉しいよ!」
「……はいはい」
ライラは苦笑いして、ペノの両耳を摘まむのだった。