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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十四章 囁きが染む
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経口補水


風が流れる。

耳元を通りすぎて、囁く。

念押すように、幾度も。



誰が呼んだのだろうと、ライラは振り返った。

庭園の先に、ライラの邸宅で雇っている使用人の姿が見えた。

使用人は、なにかを訴えるように、誰かを呼んでいた。

しかし他の使用人たちが彼女に気付く様子はない。

ライラは仕方なく、呼んでいる使用人のところへ向かった。



「ランファ様、お荷物が届いたのですが……」



困り顔の使用人が、申し訳なさそうにして言った。

使用人の目線の先、門の傍には、大荷物が置かれていた。

どうやら配送業者が面倒臭がって、邸宅の中まで運び込まなかったらしい。



「申し訳ありません。中へ運ぶように伝えたのですが」


「仕方がありません。流行り病を気にして中へは運び込まなかったのでしょう。……私も運びますから、手伝ってくれますか?」


「ランファ様に運んでもらうなんて、滅相もありません」


「平気です。というより、私が運ぼうとしたらすぐに駆けつけてくる人がいますからね」



そう言ってライラは小さく笑う。

間を置いて、邸宅からこちらへブラムが駆けてきた。

その姿を見て、ライラと使用人は顔を見合わせ、もう一度笑った。



「俺が運ぶから、あっちへ行ってろ」



大荷物を軽々と持ち上げたブラム。

ライラと使用人を追い払いように手を振った。

ライラはブラムに礼を言い、彼と共に邸宅へ歩いた。



「この箱の中身はなんだ??」



木箱を肩に担ぎながら、ブラムが顔を歪ませた。

どうやら、やや重いらしい。



「砂糖と塩です」


「……ああ?? こんなにいらねえだろ??」


「いるんです。アテンと、街の人に使うのですから」


「菓子でも作るってのか」


「もう少し健康的なものです」



ライラはそう言って、ブラムが担ぐ木箱をとんと叩いた。

重い木箱が、がくりと揺れる。

慌てて箱を持ち直したブラムが、ライラを睨みつけた。

ライラは小さく笑い、先に邸宅へ駆けて行った。


邸宅へ入ると、グナイと使用人たちがライラを出迎えた。

というより、先ほど届いた木箱を出迎えたというべきか。



「ライラ様、こちらはどう使うので?」



ブラムが邸宅へ運び入れた木箱を見て、グナイが首を傾げた。

グナイも、大量の砂糖と塩をどうやって使うのか、見当がつかないらしい。



「水分補給に使うんです」


「砂糖と……塩で?」


「花の蜜も、少し足しましょう」


「どうしてですかい?」



グナイが再び首を傾げた。

やはり知らないことなのだと、ライラは心の内で納得した。


ライラが用意しようと考えているものは、経口補水液であった。

水をそのまま飲むより、砂糖と塩をほんの少し混ぜたほうが水の吸収率が良いのだ。

とはいえ、それがなぜかと問われると、ライラも分からなかった。

ライラの知識は前の世界の一般人レベルである。

博識というわけではないため、突っ込んだ質問されると困ってしまう。



「とにかく、これは大事なことなの」


「別に疑ったりしてませんとも。ライラ様の言う通りにしますので」


「助かります」


「他には何か必要ですかい?」



木箱の中を覗いていたグナイが、ライラに視線を送った。

今なら何でも言うことを聞きそうな、少し弱った瞳。

ライラはかすかに目を細め、グナイの手を握った。



「……大丈夫です、グナイ。あとはアテンの傍にいてあげて」


「もちろん、そうしましょう」


「あとでお水を持って行きます。グナイは、アテンの部屋が寒くならないようにしてね」


「もちろんです」



頷いたグナイが、アテンの部屋へ戻っていった。

グナイの手でアテンの部屋の扉が開かれると、呻き声が漏れて聞こえた。

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