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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十三章 病の街
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浄化の魔法


貴族のソウカンの協力を取り付け、翌日。

ライラは新しい邸宅を購入した。

流行り病の対策のために、自分が住む場所を使いたくなかったからだ。


新しい邸宅の傍には水路が通っていた。

水を手軽に確保するため、あえて水路の傍の家を探した。

家の造りは周囲の邸宅に比べ、新しかった。

新築なのではと見紛うほどだった。

話を聞いてみたところ、前所有者が流行り病によって亡くなったのだという。



「……事故物件だったのですね」



購入した後にその話を聞いたライラは、がっかりした。

変な噂が流れたらどうしようと思うだけではない。

実際に変な現象が起こっては困りものだ。

魔法が存在する世界なのだから、どんな奇妙なことが起こっても不思議ではない。



「気になるなら、浄化の魔法道具でも買っておけば?」



ペノがさも当然といった様子で言った。



「そんなに簡単に買えますか?」


「高いけど、ライラなら関係ないでしょ? 邪気祓いと同じくらい、意外と役に立つよ」


「……それなら」



ライラは納得し、屋敷を見回した。

心なしか、屋敷の奥に冷気が踊っている気がした。

こうなると、邪気祓いというものがあったほうがいいかもと、ライラは思った。



夕刻になり、食卓にて。

浄化の魔法道具のことが話題に上がった。

それは新しい邸宅に使うためということからではない。

調理を担当しているグナイが、購入を希望していた。



「どうも邸宅の裏が汚いもので」



そう言ったグナイが、顔をしかめた。

聞くところによると、ライラの邸宅の裏には下水道があるらしい。

その下水道は地下に埋められてはおらず、臭いが強いという。



「あまり気にしたことなかったけど……そうなんですね」


「裏とは言っても、離れていますので。しかし風向きが悪いとどうも良くない」


「それって、浄化の魔法でどうにかなるのですか?」


「多少は良くなります。しかしまあ、この件はブラム様にもお伝えしていまして。近いうちに邸宅の近辺だけ石の蓋をしてしまおうと仰ってました」



グナイがそう言って、ブラムのほうを見た。

ブラムが黙って頷く。

ライラの気付かないところで、あれこれ気遣ってくれていたらしい。

本当に細やかな気配りができる男だ。

これで口の悪さがなくなれば完璧なのにと、思わない日はない。



「……この街の下水道は……地下に埋まってないのです?」


「ほとんど埋まってないですね。埋めない理由があるってわけでして」


「どういうこと??」


「この街の習わしっていいますかね、溜まった糞尿は家の裏手の下水道に直接捨てるっていうのが普通らしくてですね」


「そ、そうなの??」


「そうなんでさ。ああ、もちろん、最近建てられた住宅はですね、下水管がありますよ。ちゃあんと下水道に繋がってます。この邸宅もそうです」



弁明するようにグナイが言った。

たしかにそのはずだと、ライラは思った。

ライラの邸宅の便所は、便器の直下に水路があるのだ。

その水路が、裏の下水道へ繋がっているということか。



「ファロウの古い住宅は、下水道へ繋げる水路を作らないのでしょうか」


「後から繋げるには、金がかかりますんでね」


「……なるほど」



それなら、溜めた糞尿を直接下水道へ捨てに行く、という習慣が残っていても仕方ない。

だからこそ、下水道に蓋をしないということか。



「浄化の魔法で、下水が綺麗になるの……?」


「さすがにそこまでは。ですが置いとけば、邸宅に流れてくる臭いを打ち消すことは出来るってわけで」



そう言ったグナイが、浄化の魔法について説明してくれた。

浄化の魔法は光の力であり、穢れを除くことができるという。

使いようによっては、身体の汚れを無害化することもできるらしい。

しかしそれらは非常に高価で、一般人の手に届くものではないようだった。



「……そうなのですね。じゃあ、その魔法道具をたくさん買ってきましょうか」


「そいつはありがたいです。是非頼みます」



グナイがそう言い、厨房へ戻っていった。

遠くで様子を見ていたアテンが、心配そうにライラを見ていた。

アテンもまた、臭いを気にしていたらしい。

主人であるライラにだけは不快にさせないよう、皆で対処していたのだという。



「……私だけ気付いてなかったのですね」


「ま、お前はいつも物事の表面しか見てねえお嬢様だからな」



ブラムが呆れ顔を見せた。

たしかにその通りかもと、ライラは頷いた。

反論の余地はない。



「……どうせ私は世間知らずのお嬢様ですよ」


「それが分かってるだけ立派なもんだ。褒めといてやらあ」


「ああ、もう、いちいち苛々させてくるなあ!」



ライラは口を尖らせる。

その表情をブラムとペノが指差し、笑った。


間を置いて。

一日の終わりの鐘がひとつ、重く鳴った。


ファロウでの、わずかに残されていた穏やかな時。

この夜をもって終わりを告げた。

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