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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十三章 病の街
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衰弱の端


街の診療所は、以前に訪れた時よりも騒然としていた。

診療所の外にまで、患者が溢れかえっていた。

診療所の所員たちも、目まぐるしく動き回っている。

所員たちの顔色もまた、以前よりひどくなっていた。



「……良くないですね」



診療所の前に馬車を止め、ライラは目を細めた。

ブラムも同意して、小さく唸る。

ライラの肩にいたペノだけが、いつも通り飄々としていた。


馬車を降りると、所員のひとりがライラに気付いた。

しかし軽く会釈するだけで、早々に患者へ目を移した。

危惧していた通り、今はもう、金持ちのお嬢様に気遣っている余裕もないらしい。



「さあ、ブラムの出番ですよ」


「分かってら」



嫌そうな声をこぼしたブラムが、がくりと項垂れる。

間を置いて、顔を上げた。

その表情には、先ほどまでの険しさはなかった。

むしろ涼やかで、その瞳にはゆるぎない色を宿していた。



「いつもそうしてくれたら、カッコいいのに」


「お静かに、お嬢様。さあ、行きますよ」


「はいはーい」


「はい、は一回で」


「はーい」



ライラは演技をしているブラムの分まで面倒臭そうに答える。

ブラムが微かに眉を上げ、口の端を持ちあげた。

ああ。

本当に、もう。

いつもこうだったら、本当に良いのだが。


苦笑いするライラの前を、ブラムが進んでいく。

診療所の中へ入ると、数名の所員がブラムへ視線を向けた。

先ほどの、ライラに向けたような適当な反応ではない。

ブラムの存在感に圧され、敬意を表するように頭を下げた。



「この病のことに詳しい者と話をしたいのだが」



ブラムが低い声で言う。

すると所員のひとりがブラムの傍へ寄った。

その所員は若い女性であった。



「……では、私が」


「少し時間を頂いても?」


「ほんの少しであれば。ご覧のように、患者が多いのです」



女性の所員が周りを見るように促してきた。

促されるまま、ブラムが診療所内をぐるりと見る。

後ろにいたライラも、改めて周りを見た。


以前と同様に、患者は皆、顔面蒼白であった。

衰弱し、虚ろな目をしている者もいた。

患者が使っている寝台は、嘔吐物や便で汚れていた。

そのため、診療所内はひどい臭いが立ち込めていた。



「薬が足りていないのか?」



目を細めたブラムが言う。

女性の所員が首を横に振った。



「効果のある薬がないのです」


「邪気祓いは?」


「幾分効果があります」



女性の所員が俯き気味に答えた。

穢れの病と思われる病には、邪気祓いが一番良いらしい。

とはいえ女性の表情を見るかぎり、焼け石に水のようだった。

その思いを汲み取ってか、ブラムがしばらく目を閉じた。



「……病の症状は?」


「噂に聞いている通りだと思います。知られていないことがあるとすれば……身体が冷え、老人のようになっていくことでしょうか」


「老人のようとは……?」


「こちらの方です」



女性の所員が、所内の奥の部屋へ向かった。

奥の部屋は、意図的に薄暗くされていた。


薄暗闇の中の寝台には、数人の患者が横たわっていた。

そのうちのひとりの患者に、女性の所員が寄った。

ライラとブラムも、その患者へ寄る。

瞬間、ライラは驚きのあまり目を見開いた。

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