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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十三章 病の街
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なんとかしましょうよ


「じゃあ、どうしましょう……?」


「どうもしなくていいんじゃない?」


「どうして?」


「生活に支障はないでしょ?」



けろりとした表情でペノが言った。

神様らしくない言葉だと、ライラは苦笑いする。

しかしその通りだとも思った。

ライラは、自分さえ良ければいいと思っていることが多々あった。



「……でも、それならどうにかしたいです」



しばらく考えたあと、ライラは自らに言い聞かせるように言った。

ペノが首を傾げてくる。



「どうしてだい?」


「せっかくの大きな街ですから。楽しく過ごしたいですし」


「まあ……陰鬱な状態がつづくのはボクも嫌だねえ」


「でしょう? なので、なんとかしましょうよ」


「えー……面倒臭いけど、仕方ないかあ」



ペノが両耳を垂らし、ため息を吐いた。

心の底から面倒臭そうだ。

今ここにブラムがいたら、ペノを叱りつけたに違いない。

ライラはブラムに代わり、「マジメに考えてくださいね」とだけ言っておいた。


とはいえ、病をどうにかする方法など、ライラは思い付かなかった。

多量の薬が用意できるわけではないし、魔法道具も無限に使えるわけではない。

万が一どちらかを用意できても、気軽に配るわけにはいかない。

それらが病に対して必ず良い効果を発揮するとは断言できないからだ。



「ブラムに聞いてみます?」



考えているようでなにも考えてなさそうなペノに、ライラは声をかけた。

ペノはしばらく考えて、「そうしよう!」と明るく答えた。

どうやらブラムを交えることで、面白いことになりそうだと思ったらしい。

本当に性格の悪いウサギだ。



「……で? 話ってのはなんだ?」



ブラムが不機嫌そうに言った。

街の陰鬱な雰囲気を受けて、ここ最近のブラムは機嫌が悪い。

日課の運動もなかなか出来ないでいるから、当然か。



「ファロウの街の流行り病、早くなんとかしたくてですね」


「……そいつあ、俺もそう思ってるがよ」



ブラムが苦い顔をして言った。

病に無関心なブラムでも、流行り病による陰鬱な街の雰囲気には参っているらしい。



「ブラムだったら、どうします?」


「あ、ああ?? ……まあ、なんだ、……医者やら祓い士でも増やせばいいんじゃねえか」


「……そんな。粘土で拵えるわけじゃないのですから。簡単に増えるわけないですよ」


「じゃあ、隣町から連れてくりゃあいいじゃねえか」


「それは、もう。とうに連れてきているらしいですよ」


「……じゃあ、どうにもならねえんじゃねえか?」


「えええ……頼りないなあ」


「お前が言うんじゃねえ」



ブラムが手のひらを振り、ドカリと椅子に腰かけた。

そこへアテンがやってきて、テーブルに香茶を注いだカップを置いた。

その香茶に釣れれ、ライラもテーブルの傍へ行く。

ストンと座ると、アテンが笑ってライラの分の紅茶を用意した。



「……なにか考えがあんのか?」



香茶を一息で飲み干したブラムが、目を細めた。

ライラは小さく頷く。



「考えがある、というより、まずこの街でどんな治療をしているのか。それを知りたいです」


「医者どもに聞いてくりゃあいいじゃねえか」


「……ただのお金持ちのお嬢様に、アレコレと教えてくれると思います?」


「っは。確かにそうだな。面倒臭えクソ女が来たと思われるのがオチだろうな」



ブラムが鼻で笑った。

ライラは苛立ったが、言う通りだと思ったので反論はしなかった。

ライラの外見は十五歳の少女なのだ。

いくら品のある上等な服を着ていても、威厳のある印象を与えるのは難しい。


以前に寄付をしていたとしても、良い印象があるかは微妙なところだ。

むしろ、金だけはある我儘な御令嬢と思われている可能性がある。


となれば、ブラムの存在が必要であった。

ブラムは美男で、身体も大きい。

工夫や演技をすれば、品もあって威厳も纏うことが出来るだろう。



「つまり俺が、お前の代わりにアレコレ質問すればいいのかよ?」



面倒臭そうにブラムが息を吐いた。

その通りだとライラは頷く。



「簡単でしょう?」


「……やれって言われりゃあ、やるけどよ。お前の従者としてご丁寧なふりをするのも、さすがに慣れてきたからよ」


「じゃあ、やって?」


「ッチ、やるけどよ。その態度がむかつくんだよなあ。クソが」


「口が悪いなあ、もう」


「うるせえ、クソババア」


「……あ、あ、あー! そ、それ! い、言うなって言ったのにっ! ホ、ホントに! ぜ、絶対許さないからああ!!」



ライラは目を見開き、ブラムに飛び掛かった。

香茶を淹れたカップが倒れて割れないよう、ちゃんとテーブルに置いてから。


それからしばらく。

ライラの邸宅で、ふたりの喚き声がひびきつづけるのだった。

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