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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
メノス村編 第四章 トロムの眼
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告白

酒場を出る直前。

ブラムの笑い声がもう一度聞こえてきた。

その声はライラに向けられたものではなかったが、やはり少し癇に障った。



「せっかくクロフトとお喋りして、いい気分だったのになあ」


「……ん? おっと、ふふふ。そうなのかい?」



ペノが小さな声で応え、小さく笑った。

どうしたのだろうと、ライラは首を傾げる。

直後、ライラの背に誰かの手がとんと触れた。

ライラはびくりと肩を揺らし、目を丸くさせて振り返った。



「そうだったのかい? ライラ」



爽やかな青年の声。

後ろに立っていたのはクロフトであった。

嬉しそうに微笑み、ライラの瞳を覗き込んでくる。



「……っ、と、え、え??」



ライラは声を引き攣らせながら半歩下がった。

ペノの両耳が賑やかに揺れる。

ああ、このウサギは。クロフトが後ろにいたと気付いていたのだ。

本当に癇に障る朝だと、ライラは心の内でむくれる。



「俺もライラと話す時間が好きだよ」



クロフトがさらに柔らかく微笑んだ。

その微笑が、微妙な表情で固まっているライラをさらに追い込んだ。



「ふぇ? あ、あ。う、うん。そ、そう?」


「そうだよ。知ってると思っていたけどな」


「そ、そうなんだ。嬉しい、です」



嬉しいってなんだ。

ライラは答えながら、心の内では大混乱に陥った。


嬉しいってなんだ?

クロフトとは友達なのだ。

友達とのお喋りの時間は当然嬉しいし、楽しいのだ。

クロフトの言う「好き」というのも、そういうことなのだ。


そこまで考えを巡らせてから、ライラはハッとした。

胸に揺れる想いが、思いのほか大きいことに気付いた。


ああ、やはり。

クロフトが好きなのだ。

なんとなく好きなどという、あやふやなものではない。

村の女の子たちがクロフトを想うのと同じか、それ以上に。

自らもまた、強い好意を持っているのだ。



「はは。今日のライラは少し変だね。俺まで頬が赤くなってしまうよ」



クロフトが微笑みながら言った。

その笑みに、ライラはズルいと感じてしまう。

多少の焦りは見て取れるが、クロフトの頬は別段赤くなってはいないからだ。



「……クロフト。そういうこと言われると誤解してしまうわ」


「誤解って?」


「えっと……つまり、その。……村の女の子はみんな、あなたのことを見ているのよ。だから、クロフトと私のことを、みんなが誤解してしまうから」


「……そ、そうか」



クロフトの目が丸くなる。

ようやくほんの少し、頬を赤く染めてくれた。



「ああ、でも……」



頬を赤くしながら、クロフトが目を伏せた。

頭髪を手で押さえながら、ううんと唸り声を上げる。



「でも、俺は……誤解じゃないようにしたいんだ」



目を伏せながら、クロフトが小さく言った。

その言葉に、ライラの胸の奥がぎゅっと絞られた。

いや、絞られただけではない。

胸がひっくり返って、数瞬、呼吸の仕方を忘れた。



(あれ、私、今、どんな顔してるかな)



息を止めたまま、ライラは自らの頬に触れた。

自分がどんな表情になっているか。

想像する思考力がない。



「ライラ。……ああ、本当は今言うつもりじゃなかったけど」



戸惑うライラをよそに。

クロフトが言葉をつづけた。



「え、え。あ、は、はい」


「そ、そんなに緊張しないでよ。俺も緊張してしまう」


「ご、ごめ……あ、うん」


「つまり、俺は」



クロフトが息を飲んだ。

そうしてライラの目を覗く。


ライラは胸だけでなく、全身をぐっと鷲掴みされた気がした。

恋愛ごとにさほど興味がなかったライラでも、この後なにを言われるのかは想像できる。



「俺は、ライラが好きだ」



クロフトが淀みなく言い切った。

ああ。

言われた、と。

ライラの思考が止まりはじめる。


時間。

ゆっくり流れている気がした。

いや、速いのかも?

思考が止まりかけているから?

それとも自分の周りだけ時間が止まっている?



「ライラ。俺と一緒にユフベロニアの都へ行かないか?」



ライラが返事をしないからか、クロフトが言葉をつづけた。

それを聞いた瞬間、ライラの思考力はさらに鈍くなった。



(……都? ……私、も?)



つまり兵士に志願するクロフトとともに、メノスの村を出る?

ユフベロニアの都に行き、共に暮らすということ?


あれこれと不安なことが脳裏をよぎりはじめる。

止まりかけていた思考力がゆっくりと加速する。

どう答えるべきか。

いや、どうしたいのか?


考え出した瞬間。

ライラの内から、いつの間にかふわふわとした気持ちが消えた。



「クロフト。私は……」


「ライラ。急に悪かった。今すぐ返事しなくてもいいんだ。少し考えてくれないか」



クロフトが少しだけ困った顔をした。

考えなしに、思っていたことを口にしてしまったのだろう。


ライラは戸惑いつつも、小さく頷いてみせた。

出来ればすぐに返事をするべきと思ったが、今すぐ答えを用意できる気がしなかった。

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