妄想のおはなし
魔力制御の訓練を始めて、三日。
覚えの早いホウリーは、魔力をほぼ完璧に制御できるようになった。
とはいえ、連日連夜魔力を抑えることは出来ないらしい。
「でも、半日は抑えられるのですよね?」
ライラは感心したように言った。
ホウリーが得意げに胸を張り、片眉を上げる。
「すごいでしょ! これでボクも魔法使いだね!」
「そうですね。でも、他の人には内緒ですよ」
「もちろんです、お姉ちゃん!」
ホウリーがにかりと歯を見せて笑った。
ライラも釣られて歯を見せて笑い、ホウリーの頭を撫でてあげた。
ブラムが言うには、ホウリーの魔力は制御しやすいという。
微弱な分、抑えやすいらしいのだ。
力が弱ければ、不測の事態に陥る可能性も低い。
もう大丈夫じゃねえかと、ブラムが太鼓判を押した。
「……子供というのは、すごいですね」
ライラはため息を吐くように声をこぼした。
はしゃぐホウリーの後ろ姿が、ほんの少し羨ましい。
「……そうだな。ガキってのは素直だからな。なんでも覚えちまう」
「可愛いですね」
「そうかよ?」
「ホウリーがこんなに可愛いのだから、自分にも子供がいたら、もっと可愛いって思うのかなと」
「……そうかもしれねえな」
ブラムが目を細め、ホウリーから視線を外した。
その様子を見て、女々しいことを言ったかなと、ライラは肩をすくめた。
ライラは未だに、カウナのマーウライへの想いを引きずっていた。
不老の身であるのに、マーウライと恋仲になってもいいと思ったほどなのだ。
簡単には断ち切れない。
もしも結婚し、子供が出来たらどうなるだろうと妄想したこともあった。
お金の心配はいらないので、子育ては容易いかもしれないとか。
マーウライの子であるから、気品のある子供に違いないとか。
とにかく、都合の良い妄想ばかりしていた。
その妄想は、今も、これからも、しばらくはしてしまうだろう。
「……まあ、無理なことは分かっていますが」
ライラは呆れ顔をブラムに見せた。
「そうかもしれねえな」とブラムが眉根を寄せた。
どう足掻いても、ライラは不老なのだ。
夫だけでなく、子供までも、ライラを置いて時に流され、年老いてしまう。
自らの子が年老いていく様を見るのは、きっと辛いことだろう。
子供もまた、老いることのないライラを見て、辛い思いをするだろう。
「……ただの妄想です。気にしないでください」
「……そうかよ」
「でも、たまには……私に優しくしてくれてもいいですよ」
「面倒くせえから、しねえよ」
「してくださいよ」
「しねえって言ってんだろ、馬鹿ライラ」
「馬鹿って言わないで」
ライラは淡々とブラムに言い返す。
肩に乗っていたペノが、呆れたように息を吐いた。
その吐息に打たれ、ライラとブラムは顔を見合わせ、苦笑いするのだった。