魔力制御訓練の傍らで
その日から、ホウリーの魔力制御の訓練がはじまった。
思いのほか、ホウリーが訓練を嫌がることはなかった。
むしろブラムがわざと見せる不安定な魔法に興味を示したらしい。
喜んで訓練をしてくれた。
「ライラより筋が良いんじゃねえか?」
夜になり、馬車の中でブラムが揶揄うように言った。
ライラは苦笑いし、仕方なく頷く。
「子供だから覚えるのが早いのですよ」
「そうかもな。ガキってのはめんどくせえが、面白いもんだ」
「ブラムは子供が好きですよね」
「好きじゃねえ」
「好きでしょ」
「好きじゃねえよ。お前とペノに比べりゃあ、素直で好感が持てるってだけだ」
「私も素直だと思うけど」
「ひねくれ婆さんが何言ってやがんだ。さっさと寝ろ」
「婆さんって言わないで!」
ライラはブラムに向かってクッションを投げつける。
意地悪な顔をして笑うブラムが、クッションを受け止め、ごろりと寝転んだ。
翌日。
ホウリーは疲れを知らないのか。
早朝から馬車を訪ねてきて、ブラムをたたき起こした。
余程訓練がやりたいらしい。
ブラムが訓練に付き合っている最中。
ライラはチャウライの畑仕事を手伝った。
ホウリーの光の魔力の余波を受けてのことか。
体力のないライラでも、畑仕事を長い時間手伝うことができた。
「これが呪いだなんて。ホウリーはすごい子ですね」
ライラは泥だらけになった自らの手を見て、感心した。
いつもなら、とうに力尽きて倒れているはずなのだ。
疲れていないわけではないが、心地よい疲労感を覚える。
「私たちもそう思います」
ウィレンが頷いて言った。
もし貴族の子として生まれていたら、聖人として扱われても不思議ではないのだ。
しかし平民には、そのような道などない。
隠す術がなければ、悪い考えを持った者が近付いてくることだろう。
「訓練が終われば、街で生活することもできます。きっと」
「そう願っています。あの頃は……逃げるようにここへ来ましたから」
「ホウリーが生まれた時、誰にも気付かれなかったのですか?」
「幸い、誰にも知られていません。私の祖母が、出産を手伝ってくれましたから。生まれてすぐにホウリーを隠して、私たちは街を離れたのです」
そう言ったウィレンが、複雑そうな表情を浮かべた。
ウィレンの祖母は、すでに亡くなっているという。
秘密を共有する者が減り、街から離れてひっそりと暮らすのは、非常に心細いことだろう。
苦しそうな表情をしたウィレンに、チャウライがそっと寄った。
その温もりに安堵したのか、ウィレンの表情がゆるんだ。
「……これからは何もかもが上手くいくような気がします」
「これだけ広大な畑が作れるのですから、きっとどこへ行っても上手くいきますよ」
「そうですね。この畑だけは、私たちが誇れるものです」
ウィレンとチャウライが笑った。
そのふたりの、泥だらけの手。
畑よりも、光魔法よりも輝いていると、ライラは思うのだった。