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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十二章 呪いと祝福
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長閑なる


早朝の散歩をはじめて、四日。

未だ体力は付かないが、朝早く起きることは出来るようになってきた。

もちろんブラムに起こしてもらわなければ目を覚まさないが、寝惚けすぎることはない。



「おはようございます、御者さん」



いつも通り馬たちの面倒を見ている御者に声をかける。

御者が無言で頭を下げ、ライラにカップを手渡してくれた。

カップには温かな香茶が淹れられていた。

散歩をはじめてから二日目より、御者がライラのために毎朝淹れてくれているのだ。



「……お気を付けて」


「ありがとうございます。少し行ってきますね」



香茶を半分だけ飲み、ライラは歩きだす。

まだ眠いが、身体は軽かった。

前日の疲れは、治療用の魔法道具で多少解消しているからだ。



「とりあえずフラフラ歩くことはなくなったね!」



ペノが褒めるようにして言った。

本気で褒めているのか分からないが、ライラは自慢げに眉を上げる。



「まだ若いですからね」


「外見だけね!」


「うるさいなあ、もう」



当然のように揶揄うペノの両耳を、ライラは摘まみ上げた。

痛がるペノ。捻るような声をあげる。

しかしすぐに、奇妙な声を混ぜた。


奇妙な声の向く先。

小さな家が建っていた。

小さな家はひとつだけで、前後左右を見渡しても集落は見えなかった。



「ずいぶん変なところに家が建ってますね」



驚きのあまり、ライラはペノの耳から手を離す。

ようやく解放されたペノが、両耳を押さえつつ頷いた。



「空き家というわけでもなさそうだねえ」


「不便でしょうに」


「不便が好きな人が住んでいるのかも?」


「そんな人、います?」


「意外といるんだよ? ライラとは絶対合わないだろうけどね」



ペノが両耳を揺らして笑う。

ライラは目を細めて、再びペノの両耳を摘まもうとした。

しかし慌ててペノが逃げたため、捉えられなかった。

ライラは揶揄うペノの相手を諦め、小さな家の方へ目を向けた。


家の周りには、畑が広がっていた。

畑はやや高い柵がぐるりと囲んでいた。

家と畑の傍には細い水路があり、綺麗な水が流れていた。

どうやら遠くの川から引き込んでいるらしい。



「手間がかかってますね」


「ライラなら絶対自分でやらないよね!」


「はいはい。そうですよ。とりあえず馬車へ戻りますよ」


「あの家に行ってみないの?」


「気にはなりますけど、用事はありませんから」



ライラは翻り、馬車へと戻る。

思いのほか長い距離を歩いていなかったようで、靄がかかった馬車がすぐに見えた。

馬たちの傍でごろりと寝ている御者の姿も見えた。

そのすぐ隣に、ブラムの姿もあった。



「朝飯喰うか」



朝食の支度を終えたらしいブラムが、ライラを手招いた。

ライラは頷き、用意されたテーブルの前へ行く。

テーブルには、野草と獣の肉のスープと乾パンが並べられていた。



「……苦スープですね」



ライラはスープから遠ざかるように顎を引いた。

それを許さないと言わんばかりに、ブラムが顔をしかめる。



「昨夜の残りだ。勿体ねえからな」


「美味しくない、とは言わないのですけどね……」


「贅沢言うんじゃねえ。栄養はあるぞ。疲労にも効く」



そう言ったブラムがライラを指差した。

一応、未だ慣れない散歩をつづけているライラの身体を気遣ったらしい。

そうと知れば、ライラは何も言えなくなった。

多少苦いくらい、我慢せざるを得ない。


しかし覚悟を決めて飲んだスープは、思いのほか美味しかった。

苦みを抑えるように、味付けし直したのだという。

なんという女子力の高さだと、ライラは苦笑いした。

性別が逆であったなら、ブラムは良いお嫁さんになったことだろう。口は悪いが。

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