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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十二章 呪いと祝福
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でっかい貯金箱


夜の闇。

悲鳴が上がり、溶けて消えていく。


甲高い悲鳴だが、女性の声ではない。

いくつもの男性の声が高く上がり、四方へ散っていった。



「っち、しょうもねえな」



四散する男たちを見て、ブラムが唾を吐き捨てた。

逃げていく男たちは、盗賊であった。

ライラの馬車を見て、襲いかかってきたのである。

最近はこうした襲撃が増えていた。

ライラの家馬車が、あまりに大きく、豪華であるからだ。



「ま、ご主人様の馬車は目立つからな! でっかい貯金箱に見えても不思議はないって!」



盗賊撃退を手伝ってくれた精霊のロジーが、肩をすくめて言った。

確かにそうだなと、ブラムが頷く。



「……ロジー。お前の魔法で、地味な馬車に見えるようにできねえのか?」


「それってつまり、魔法で幻を映すってこと? そいつは大変なことだ。幻を映すために魔法を使いつづけなくちゃあならないからな。昼も夜も、寝ている間も、馬車の動きに合わせて魔法を唱えつづけなくちゃあならない。さすがに御免だね、それは。夢の中までお先真っ黒な仕事をしたくはないよ。お肌も荒れるしね」



ロジーが両手のひらを見せて、首を横に振った。

大好きな金貨が貰えるなら何でもするというわけではないらしい。

ふたりの話を聞いていたライラは、ロジーに声をかけ、とんと肩を叩いた。

そうして数枚の金貨を手渡す。盗賊を追い払う手伝いをしてくれた報酬だ。



「ありがたい! ご主人様!」


「こちらこそいつもありがとう、ロジー」


「どういたしまして! お優しいご主人様に、少しだけサービスしてあげよう!」



そう言ったロジーが、長々と魔法の言葉を唱えた。

すると、靄のようなものがライラの家馬車と馬車を曳く馬たちを包んだ。

靄が包んだ部分は蜃気楼のように歪み、馬車の存在を曖昧にさせた。

しかし身体を動かしている馬だけは別のようで、靄の中から時々姿を見せた。



「幻影は面倒だけどね、馬車さえ動かなければしばらくこれで誤魔化せるよ。どう? お気に召した?」


「十分よ、ロジー。良ければ、明日もこうしてくれる?」


「これくらいならお安い御用だ! でも動いちゃったら魔法が消えちゃうからな? お馬さんたちもあまり動かないようにしてくれよな」



ロジーが靄から時々姿を見せる馬たちを指差す。

ライラは頷き、その通りにそうすると伝えた。

馬は別の場所で休ませるようにすれば、なんとかなるだろう。

御者の精霊に面倒を見てもらえれば、憂いはない。


盗賊の心配もなくなったところで、ライラは途端に眠くなった。

欠伸をしつつ、靄に包まれた馬車へ戻る。


靄の払い除けるようにして進むと、突然馬車が見えるようになった。

御者台には御者の精霊がいて、ライラの帰りを待っていた。



「今夜はこの状態で休むそうです。御者さんは馬を別の場所へ連れていって、休ませておいてくれませんか?」


「……御意」



御者が短く答え、頭を下げる。

そうして馬車から馬を解き、少し離れた場所へ連れて行った。

不思議なことに、靄でつつまれているはずの馬車の中からは、外がはっきりと見えた。

靄の様子を見て首を傾げているブラムの姿もよく見える。



「……こんなめんどくせえことするくらいなら、小せえ馬車に変えちまわねえか?」


「いやですよ」


「なんでだよ」


「楽して生きたいですから」


「……盗賊に襲われる毎日が楽だとは思えねえがな」


「いつも撃退に励んでくれて感謝してます」


「……良い性格してるじゃねえか、クソが」



靄を払いながらブラムが馬車へ乗り込んでくる。

そうしてライラの顔を見ると、面倒臭そうな表情でそっぽを向いた。


ブラムがどかりと椅子に座る。

ライラはブラムに気遣って席を立ち、家馬車の後部へ向かった。

後部には短い廊下。

廊下の左右にライラの寝室とクローゼットがあった。


寝室に入る直前、ライラはブラムに短く礼を伝えた。

ブラムは言葉を返さなかったが、手だけを振り、「さっさと寝ろ」とライラを追い払った。



「やっと眠れるなあ」



寝室に入るや、ライラはベッドに飛び込んだ。

柔らかな綿。ライラの疲労を包み、取り去ってくれる。

淡く温かく揺らめくランプもまた、ライラの心を撫でた。

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