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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十一章 カウナに流れる恋三つ
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思うように生きたほうが良い


しばらくの時が経った。

マーウライとは三十日近く会っていない。

畳みかけるように説得してくるかと思っていたが、逆にマーウライからの訪問がぴたりと無くなった。

それがマーウライにとって功を奏したというべきか。

三十日前よりも今の方が、マーウライのことを意識するようになっていた。



「完全にマーウライの手のひらの上だよねえ」



ライラの傍で、ペノの笑い声が鳴った。

ライラはテーブルに突っ伏し、ペノの笑い声を睨む。



「そんなに悪い人でしょうか」


「さあねえ。善人だとしても、ライラに対してかなり入れ込んでるのは間違いないね」


「なんだか魔法をかけられている気分です」


「その辺りは問題ないよ、ボクもロジーも確認済みだからね。ただただ単純に、ライラがマーウライに恋しちゃっただけ」


「そんなはずないのになあ」


「チョロ甘だねえ」


「言い方あ」



ライラは頬を膨らませ、テーブルに額を押し付けた。

その様子を見かねたのか。アテンがライラの傍へ寄った。

ライラの手を取り、励ますように手の甲を撫でる。


ライラは顔を上げ、グナイが持ってきてくれた香茶を飲んだ。

オレンジの香りが鼻腔をくすぐり、全身を包む。

背中がふわりと温かくなったのを感じて、ライラは身を起こした。

悩んでも仕方ないと、引き上げられた気分になった。



「どうしようもねえだろ」



ライラの背中を蹴るように、ブラムの声がひびいた。

仰る通りとライラは内心頷いたが、ブラムに言われたくないという思いも過ぎった。



「まあ、生きていく時間が……違いますからね」


「マーウライは長生きしたところで百年。お前は何百年、何千年と生きることになるんだぜ」


「分かってますよ」


「ま。たまには普通の人生を送りてえって気持ちも分かるがよ」



そう言ったブラムが、窓から街を覗き見た。

邸宅の敷地の外。多くの人々が行き交い、過ぎていく。

その只中に居たいと思うからこそ、ライラは街から街へ転々としていた。

出来るかぎり普通に生きていたいという想いは、やはり簡単には消えない。



「お前はメノス村にいた時から全然変わってねえな」


「……ブラムだって大して変わってないでしょ」


「かもな」



ブラムが両手のひらを上げ、頷く。

テーブルを挟んでライラの前に立ち、懐から手紙を取り出した。

それは、マーウライからの手紙であった。

昨日、こっそりとマーウライから受け取ったのだという。



「あのガキは、もしかしたらお前のことを受け入れるかもしれねえぜ」



手紙をライラに手渡して、ブラムが口の端を持ちあげた。

ライラは手紙を開きながら、首を傾げる。



「どういう意味?」


「マーウライは、お前と一緒になるためなら領主にならなくてもいいんだとよ。街を出て、自分の力でお前を支える覚悟があるらしいぜ」


「……その覚悟があるから、私の力や不老のことも受け入れるということですか?」


「そういうこともあるかもな」


「ブラムのことも知られてしまいますよ?」


「だろうな」


「だろうな、って……」



ライラは顔をしかめる。

しかしブラムは顔色ひとつ変えず、飄々と笑った。



「俺は、お前がそうしてえって言うなら付き合ってやる。そうするって決めてんだ」


「居心地が悪くなってしまうかもしれませんよ」


「俺の居心地が悪くなった時は、お前の居心地も悪くなってる時だ。そうだろ? その時はとっとと逃げちまえばいい」



そう言ったブラムに、ライラは「確かにそうですね」と頷いた。

メノス村を出てから、これまで。ブラムとは一蓮托生の仲なのだ。


ライラはテーブルに手を突き、立ち上がる。

悩んでも仕方ない。

どうしようもないことは、どの道を選んでも多少は在る。

それなら、思うように生きたほうが良いというもの、かもしれない。



「……たまには、とんでもないことをしてみましょうか」


「恋だの愛だのが、とんでもねえことかはしらねえが……まあ、婆さんにとっちゃあ、とんでもねえことかもしれねえな。せいぜい頑張って散って来いよ」


「っはー……殴りたい」


「やってみろよ、その枯れ枝みたいな腕でよ?」


「あああ、言いましたね。ホントに殴りますから。殴りますからあ!」



ライラは拳を握ってブラムに飛び掛かった。

その拳を、ブラムが容赦なく避ける。

ライラは歯噛みして、何度もブラムに飛び掛かった。


そうした賑やかな様子を、テーブルの上でペノが見ていた。

なにを言うでもなく、なにかを考えるように。

しばらくして。

ペノが囁くように歌を口ずさんだ。

その歌はあまりにも小さく、賑やかなふたりの声が掻き消して、気付かれることはなかった。

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