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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十章 風光の祭
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サインクスの家馬車

祭りは五日つづいた。

七日経った頃には、村はすっかり元通りとなっていた。

嵐の爪痕もほとんどない。

何事もない日常が、村とその一帯に流れはじめていた。



「おい、ライラ」



ぼうっと過ごしているライラを、ブラムの声が小突いてきた。

振り返ると、困り顔のブラムが立っていた。



「どうしたの?」


「どうしたの、じゃねえ。お前、またとんでもねえもの買いやがったな」


「なんのことです?」



ライラは首を傾げる。

ブラムが宿の外へ手招きしたので、ライラは欠伸をしながら外へ出た。


宿の前には、呆れ顔のブラムと、村の職人たちが立っていた。

その後ろに、大きな馬車がどんと置かれている。

ライラはぱっと表情を明るくさせて、大きな馬車へ歩み寄った。



「出来たのですね」


「注文通りです、お嬢さん」


「良い出来です。感謝します」



ライラは喜び、職人たちに深々と礼をした。

それから袋の中に手を入れ、「お金に困らない力」を使う。

ずしりと、袋に重みが加わった。

どうやら予想以上に製作費がかかったらしい。



「ありがとうございます、お嬢さん」


「こちらこそ」



ライラは職人たちに手を振り、再び頭を下げた。

金貨が詰まった袋を受け取った職人たちは、何度も振りかえり、ライラに手を振り返した。



職人たちが帰ったあと、ブラムが盛大にため息を吐いた。

そうして大きな馬車を小突き、ライラを睨む。



「この馬鹿デカい馬車はなんだ??」


「壊れたから作ってもらったのですけど?」


「こんなにデカいのを?? 馬鹿か??」



ブラムが馬車を見上げて苦笑いした。


ライラが注文した馬車は、これまでの倍以上の大きさであった。

といっても、普通の馬車の倍ではない。

ライラたちが元々乗っていた馬車は、普通の倍以上であった。

つまり目の前の馬車は、普通の四倍以上の大きさだ。


中を見てみると、ふたつの部屋が用意されていた。

前方の部屋は、通常の馬車と同じく座席が設けられていた。

座席は三つあり、中央の座席が折りたためるようになっていた。

座席を折りたたむと通路となり、後方の部屋へ進めるようになっていた。


後方の部屋は、寝室とクローゼットになっていた。

そのさらに後ろには、物置として使える空間が用意されていた。


あまりに巨大な馬車なので、馬は八頭となっていた。



「つまり、自分の部屋が欲しかったわけか?」


「そう」


「クローゼットなんか必要か?」


「必要です」


「こんな馬鹿デカい馬車のために、馬を八頭使うのかよ?」


「たくさんいないと曳けないから仕方ないですよね」



ライラはさも当然といった表情で頷く。

するとブラムが再び盛大にため息を吐いた。



「……そうだな。仕方ねえな。俺がおかしいのかもしれねえしな」



ブラムが項垂れる。

同情したのか、ライラの肩の上にいたペノが、とんとブラムの傍へ寄った。



「やっぱりライラの『ちょっと』は、ちょっとどころじゃなかったねえ」


「そうですか?」


「まあ、ボクは良いよ! 面白いからね!」



ペノが愉快そうに笑い、ブラムの肩をとんと叩く。

ブラムが片眉を上げ「まあ、そうだな」と呆れたような声をこぼした。

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