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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十章 風光の祭
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ボロボロでもその背は広い


「さあて、そろそろ追い付いて来やがるかもな」



ブラムが翻った。

森の奥。クアンロウの姿はまだ見えない。

しかし先ほどまでは感じなかった、力強い生命力が迫ってきていた。

まるで目前にいるようだと、ライラは肩を震わせる。



「ブラム、まだ動ける?」



震えた声で、ライラは尋ねた。

ブラムの片眉が微かに上がる。



「動けはするがよ、もう全力で走れそうにはねえな」


「じゃあ、戦うしか……」


「そういうこった」



ブラムが口の端を持ちあげる。

両拳を握り締め、クアンロウが迫ってくる方向を見据えた。


ライラもまた、風の魔法道具を構える。

魔力はほとんど残っていないであろうから、役に立つか分からないが。



「グガオオオオオオオオオ!!!!」



森の奥底から、クアンロウの雄叫びが鳴りひびいた。

直後。四つの巨大な影が木々の間より現れた。

その影に合わせ、ブラムが拳の向きを変える。

すべてのクアンロウを殴り倒してみせると言わんばかりの表情を添えて。


クアンロウの鋭い爪。

ブラムとライラに向かって繰り出された。

ブラムが寸で避け、同時にクアンロウの後足を殴る。

骨を砕いたような鈍い音が、ライラの耳傍で鳴った。


さらに前方から、二匹のクアンロウ。

左右から挟み込むようにして襲いかかってくる。

ブラムは迎え撃つために前方へ進み出た。

右方のクアンロウの前足を掴み、軌道を変えてから胴を横から殴りつける。

次いで、左方のクアンロウの顔面に蹴りを入れ、弾き飛ばした。



「……すっご」



ライラは驚き、声をこぼす。

しかしすぐに異変に気付いた。

クアンロウを迎撃したブラムの拳と脚が、奇妙に曲がっていたのだ。



「逃げますよ!」


「っち、仕方ねえな」



ブラムが苦い顔をして頷く。

ライラはすぐさま風の魔法道具を構え、撃った。

四匹目のクアンロウの顔面に風の塊が中り、吹き飛ぶ。

同時にブラムの身体も後方へ吹き飛んだ。



「……弱いな。魔力切れか」



後方へ吹き飛ぶ勢いが弱いことに気付いて、ブラムが顔をしかめた。

確かにそうかもと、周囲の景色を見てライラも苦い顔をする。

これでは大した距離を取ることは出来ないだろう。

吹き飛ばされたクアンロウも、すぐに立ち上がるに違いない。



(……もうダメかな)



早々に着地したブラムの背で、ライラは目を瞑った。

その瞬間、ライラの頭の中に陽気な鼻歌が流れこんできた。



『ふふーん。真の英雄はほんの少しだけ遅れてやって来るんだ。なぜって? そのほうが強そうだから!』


「ロジー! 遅いです!」


『ごめん、嘘! 他のクアンロウに手間取ってただけ! 森を傷付けないように魔法を撃つのって、けっこう大変なんだから!』


「いいから早くなんとかして!」


『もちろんさ! 予定通りの場所まで逃げてくれて感謝するよ、ご主人様! 気付いてないかもしれないけど、そこはもう、ギリギリ森の外だからね! ロジー様の魔法を撃ち放題ってわけ!』



ロジーの言葉を受け、ライラは辺りを見回した。

たしかにブラムとライラがいる場所は、森の中ではなかった。

最後の風の魔法で、なんとか森の外まで逃げ出せたのだ。

追いかけてくるクアンロウもまた、森の外へ出ていた。


一拍置いて、空から光の柱が降りてくる。

四匹のクアンロウを包んだ光が、一瞬でクアンロウの肉を焼き消した。

光が収まると、ライラたちの目の前にはクアンロウの骨だけが残されていた。



「……なんとか、なりましたね」


「……だな」


「……ブラム、治療するからしばらくじっとしていて」


「言われなくても動けやしねえよ」



そう応えたブラムが、地面に倒れた。

仰向けになり、痛みを堪えて顔をしかめる。


改めて見ると、ブラムの怪我はずいぶん酷かった。

先ほど負った、手足の骨折だけではない。

両手のひらは血に塗れていた。

衣服もボロボロで、胴や太ももに深い傷を負っていた。



「見てねえで、さっさと治してくれよ」


「う、うん」



ライラははっとして、治療用の魔法道具をかざす。

温かな光がブラムの全身を包んだ。


治療は夜遅くまでつづいた。

夜の冷たい風を防ぐため、空から戻ってきたロジーが簡易の小屋を建ててくれた。

その小屋の中で、ライラは懸命にブラムの身体を治しつづけた。


そうして治療用の魔法道具が三つ、魔力切れとなったころ。

ブラムはようやく起き上れるようになったのだった。

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