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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十章 風光の祭
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そうするつもりの、水袋


再び魔法道具を構える。

青白い光が生まれ、炸裂した。

先ほどよりも多くの風の塊が、光の中から弾きだされた。



「使い切るまで撃ちますよ」


「おう、やれ!」



ブラムの了解を得て、ライラは魔法道具から風を乱発させた。

瞬間。

光と轟音が、森を抉るように駆け抜けた。

一匹のクアンロウが、風に吹き飛ばされていくのが見える。

しかし見えたのはそれだけだった。



「うわああああ!!」



ライラは思わず声をあげた。

魔法の反動が大きすぎて、凄まじい速度でブラムが吹き飛ばされたからだ。



「うるせえ! 黙ってろ!!」


「無理ですううう!!」



ブラムに怒鳴られても、ライラは叫びつづけた。

あまりに恐ろしくて、目も瞑れない。

瞑れば、音や衝撃に敏感になりすぎて、気が変になりそうな気がした。


狂ったように叫ぶライラに、ブラムが顔をしかめる。

仕方なしと、ブラムはいくつかの木々を蹴り飛ばし、強引に身体の向きを変えた。

そうやってようやく、正面を向いて吹き飛ばされつづけた。

ところが、それがかえってライラの恐怖を煽った。

強引に向きを変えたことによる振動で、乗り物酔いのような感覚がライラを襲った。



「……き、気持ち悪……」


「お、おい、吐くなよ!?」



青ざめるライラに、ブラムが慌てだす。

しばらくして、ブラムとライラはなんとか地面に着地した。

長く息を吐くブラム。滝のような汗を流している。

ライラは震える手で治療用の魔法道具をかざした。



「悪いな」


「……この道具が、乗り物酔いにも効けばいいのに」


「はは。そんなもんより、もっと効くやつがあるぜ」



ブラムがにやりと笑い、自らの腰に下げた獣の水袋を開けた。

それを飲むのかと思いきや、ブラムは頭から水を被った。

当然その水は、ブラムに背負われていたライラにもかかった。



「ちょ、っと!!」


「はは! どうだ、酔いも醒めただろ!?」


「びしょびしょですよ、もう」



ライラは頬を膨らませつつも、治療用の魔法道具をかざしつづける。

温かな光が、水を被ったブラムをじわりと照らした。


ライラは一度、後方をふり返った。

追いかけてきているはずのクアンロウの姿は、まだ見えない。

ほっと息を吐き、ライラは自らの腰に下げてある水袋を取った。

栓を開けて、ブラムの口元に当てる。



「飲んでおいてください」


「そいつはお前のだろ」


「私は疲れてないから平気。それに今飲んだら、私、吐いちゃうので」


「っは。そりゃあ飲ませられねえな。俺が貰っておいてやらあ」



ブラムが笑って、ライラの水袋を受け取る。

今度は頭から被ったりはせず、ゆっくりと、すべて飲み干した。

空になった水袋は、ライラに返さず、自らの腰に下げた。

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