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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第十章 風光の祭
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山獅子


『……聞こえるかい、ご主人様』



不意に、ロジーの声がライラの頭の中で鳴った。

その声はライラにだけ聞こえているらしい。

ライラを背負っているブラムが、ロジーの声に反応することはなかった。



「聞こえています、ロジー」


『それは良かった。魔法で声を届けているんだ。俺はこれから、空の上からご主人様を誘導するよ。準備はいいかい?』


「いつでも構いません」


『なら、始めよう! クアンロウはご主人様の位置から北西側にいる!』


「じゃあ、餌をちらつかせるために、そっちへ行けばいいですね?」


『そういうこと! 美味しそうなふりをしてくれよ!』



そう言ったロジーの声が、ぷつりと聞こえなくなった。

ライラは少し苛立ちを覚えたが、ぐっと堪えた。


ブラムに北西へ向かうよう指示をする。

黙って頷いたブラムが、風のように駆けはじめた。

ライラは縛りつけられてはいたものの、振り落とされそうな気がしてブラムに抱きついた。



「しっかり掴まってろ」


「わ、分かりました」



ライラが答えた直後、ブラムの駆ける速度がさらに上がった。

鍛えているから速いなどという次元ではない。

明らかに魔法を使って、速度を上げていた。


途中。ロジーから何度も、駆ける方向の指示を受けた。

クアンロウもまた、どこかへ移動しているらしい。

そのたびにブラムは細かく方向を変え、駆けた。


やがてクアンロウがいるらしい場所へ近付く。

ロジーの指示を受ける直前、ブラムの足が止まった。



「……いるな」


「クアンロウ?」


「たぶんな。ロジーはどう言ってるんだ?」


「えっと……、あ……、うん、もう目の前にいるはずだって」


「そうかよ。じゃあ、静かにしてろ。ゆっくり近付くからよ」



ブラムが小さな声で言った。

ライラはブラムの背で、黙って頷く。

頷いた振動を感じ取ってか、ブラムがゆっくりと進みはじめた。


ライラの目には、クアンロウの影も形も映っていなかった。

ところがブラムと、ライラの肩にいるペノには、クアンロウの居場所がはっきりと分かるようであった。

なにかをじっと見据え、進んでいる。

ライラは悔しくなり、目を細めて森の奥を覗いた。



「もうすぐ、ライラでも見えるよ」



ペノが笑いながら言った。

ライラは驚きと恐れを同時に抱く。

先ほどまでの悔しい想いが、霞のように消えていった。



「ライラ。あそこだ」



ブラムが前方を指差した。

その指の先。生き物の影がふたつ。



「……あれが、クアンロウ……?」


「らしいな」



ライラとブラムが同時に息を飲む。


森の中を力強く歩く、巨大な魔物。

クアンロウの身体は、人間の身体の三倍以上はあった。

頭は細長い山羊のようで、顎から蛇のような別の生き物が生え出ていた。

身体は細長い獅子のようで、地面をとらえる四つの足には長い爪があった。


クアンロウの額は、淡く輝いていた。

頭を軽く動かすと、額の光が少し強くなった。

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