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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
メノス村編 第三章 明かり
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安全の模索

行商人たちとの取引は次第に活発となっていった。

さすがは商人というべきか。

ただ商品を運んでくるだけではなかった。

都度、村人が潜在的に欲するものを調べ、先回りして運んでくるようになった。


倉庫の利用も同時に活発化した。

ただ商品を保管するだけではない。

別の地域へ輸送する中継点や、行商人同士の取引の場として利用されるようになった。

次第にメノスの村は賑やかになり、ライラの思惑通りとなっていった。



「お金を借りたいと?」



ある日。

数人の村人を前にして、ライラは首を傾げた。



「行商人たちに向けたお店を準備したいのです、ライラ様」


「宿屋が、ですか?」


「宿屋を兼ねた酒場です」



そう言った村人が、考えてきたのであろう幾つかの案をライラに話しはじめた。

ライラは商人ではないので、村人の案が良いものかどうかは分からなかった。

しかし村人の申し出を断ろうとは思わなかった。

宿屋などは、ライラ自身も準備したいと考えていたからだ。

ライラは村人たちに「明日返事をします」と答え、その日は帰ってもらった。



「どうして即答しなかったの?」



夜になり、ペノが不思議そうに言った。

ライラはベッドに寝転びながら目を細める。



「大金を出すときは、たくさんの魔力を使うのでしょう?」


「そうだね?」


「即答して大金を渡したら、またブラムが飛んできてしまいますから」


「ああー、それは間違いないね!」


「なので、先にブラムと相談します。魔力を使いたい日を先に伝えておけば、ブラムも文句言わないでしょうし。……もちろん、何のために魔力を使うかは教えませんけどね」


「なるほどね!」



ライラの考えにペノが同意する。

ペノもブラムのことがやや苦手であるらしかった。

ブラムが訪ねてきた時に面白がっているのは、ライラが困っているのを特等席で見れるからというだけだ。


ライラとしては、ブラムと相談するのは他にも理由があった。

メノスの村とその周辺に、別の魔族がいないかを確認するためである。

万が一ブラムと交流のある魔族が村へ訪れているとしたら、その日は絶対に魔力を使うべきではない。


そうした考えをまとめて、翌日。

ライラはブラムを訪ねた。

ブラムの家を知らないため、ライラは村中をぐるぐると歩き回った。

陽が高くなったころ、ようやくブラムを見つけることができた。

遠くから声をかけると、振り返ったブラムが顔面を引きつらせた。



「……な、なんの用だよ??」


「ブラムも突然訪ねてくるのに、そんな顔しなくてもいいじゃないですか」


「……ちっ、まあ、そうだな」



ブラムが自身の白髪を掻き毟る。

よほどライラに会いたくなかったらしい。

ライラは苦い顔をして、手っ取り早く用件のみ伝えることにした。



「つまり魔力の訓練をしたいってわけか……?」



事前に準備していたライラの嘘に、ブラムが素直に騙されてくれた。

ライラの嘘は「奇跡的に生まれ持った魔力をきちんと管理できるようにするため、時々訓練している」といったものであった。

まったくの嘘ではないから、ライラの良心が痛むことはない。



「そうです。だから、安全に使える日を教えてくれませんか?」


「安全にだあ? ……ああ、近くに好戦的な魔族がいたらって俺が言ったからだな?」


「それです」


「正直、それは俺にも分からねえ。この村には俺以外の魔族はいねえし、他所からも突然来るこたあなかなか無え。だが、絶対無えとは言えねえ」


「じゃあ、どうすれば……」


「でけえ魔力を使わないようにすりゃあ、気付かれはしねえよ」



ブラムがそう言い、道端の石を拾いあげた。

何をするのかと、ライラは首を傾げた。

するとブラムは、拾い上げた石を宙に浮かせてみせた。

人差し指を立て、指を中心にしてクルクルと石を周回させる。



「ライラ、お前が魔力の訓練とやらをする日を俺に教えておけ。その日に俺は、お前の家のほうへ注意を向けておく。そんで最初の日は魔力を少なく使え。そして回数を重ねるたびに魔力をでかくしていくんだ」



そう言ったブラムが、指の周りで周回させている石をもう一方の手で指差した。

くるくる回っている石が、どんどん広く回っていく。

回る石をライラの魔力と見立てているのだろう。

ある程度広く回した後、ブラムは片方の手で周回していた石を掴み取った。


ライラは初めて見た魔法に、驚きを隠せなかった。

ライラが使う「お金に困らない力」とは明らかに違う。

ブラムが使った力こそ本物の魔法だと。ライラは思った。


食い入るようにブラムの手の内の石を見つめるライラ。

鬱陶しいと思われたのか。ブラムが咳払いをした。

ライラははっとして、顔を上げた。



「……あ、え、えっと、離れたところにいるブラムが私の魔力に気付いたら、教えてくれるの?」


「……まあ。そういうこった。それで、俺には気付かない程度の魔力量がどれほどか分かるだろ。村の中にいる俺にも気付けないってことは、村の外でも気付けないってこった」


「……う、うん。その、えっと」


「なんだあ? 不満かよ??」


「え、ううん。……ブラムがそこまで手伝ってくれるとは思ってなくて」


「なんだあ!? 馬鹿にしてんのか、馬鹿ライラ!」


「ば、馬鹿って言わないでったら!」



思わずライラは怒鳴る。

間を置いて、ブラムが意地悪そうに笑った。

初めて見たブラムの笑顔。

ライラはほんの少し、心の隅にあった寂しさが消えたような気がした。

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