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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第八章 ロズのオルゴール
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普通にあるべきもの


一年と少し経ち、ようやく小型のオルゴールが完成したと報せを受けた。

完成を待ちわびていたライラは、急いで馬車を用意させた。

しかし金属細工師たちがライラの邸宅へ来る方が早かった。

「早く見せたかったので」と、子供のような笑顔で金属細工師たちがライラへ詰め寄る。



「と、とにかく、お上がりください」



ライラは邸宅へ金属細工師たちを招き入れた。

間を置いて、コウランと石琴職人もライラの邸宅へ訪ねてきた。

テーブルに小型のオルゴールを置き、いざ回そうとする直前、作曲家の男も訪ねてきた。

こうして小型のオルゴールのお披露目は、関わったすべての人の前で行われることとなった。



「それではお聴きください」



金属細工師のひとりが、自信に満ちた笑顔を見せた。

そうして、そっと小型のオルゴールに手をかける。

手のひらより少し大きい金属製のオルゴールは、手回しのハンドルが付いていた。

金属細工師がハンドルを回すと、銀色のシリンダーがゆっくりと回りはじめた。


流れだした音楽。

作曲家の男が新しく作った曲だと、金属細工師たちが言った。


心安らぐ旋律。

しとりと、部屋に染み込んでいく。



「……なかなかなもんだ」



ブラムが腕を組んで言った。

コウランが作った木製のオルゴールよりも軽やかな音に、ほうと息をこぼす。

ライラはブラムに頷き、金属細工師たちに深々と頭を下げた。



「大変だったでしょう。本当にありがとうございます」


「とても面白い仕事でした。いや、誇れる仕事というべきですかな」


「そう言っていただけると嬉しいです」



ライラは礼を言い、金属細工師たちに報酬を払った。

「お金に困らない力」を使うと、予想以上の金貨が手から溢れ出た。

この世界におけるオルゴールの価値というだけではない。

製作期間中の給金も、合わせて出てきたといったところだろう。



「こ、こんなに頂いても?」


「どうぞ、お納めください。作曲家さんにも追加で払います」


「あ、いや、これはありがたい」



作曲家の男が喜んで進み出てきた。

ブラムが言うには、あと少しで借金が返しきれそうなのだという。

ライラは作曲家の男にも深く頭を下げ、報酬を払った。



「こいつを生産して、売ったりはしねえのかい?」



静かに見守っていた石琴職人が、不思議そうに言った。

金属細工師や作曲家の男も、石琴職人に同意する。



「売れますか? 少し値段が高くなりそうですが」


「短めの曲なら、シリンダーのピンも減る。価格も抑えられるんじゃねえか」


「それでも量産できるでしょうか、面倒臭そうですけど……」


「精度は落ちるかもしれねえ。だが、かえって好都合ってもんよ」


「……好都合?」



ライラは首を傾げた。

流れる音楽の精度が落ちて、都合の良いことなどあるのだろうか?

その疑問に、石琴職人の代わりに作曲家の男が問題ないと頷いた。

精度を落とすことで、質の良い音楽を守っている金持ちたちの目が厳しくならずに済むという。



「つまり、玩具みたいなオルゴールが庶民の間に出回る程度なら、お金持ちの方は文句を言わないと?」


「そういうことだね。それだけじゃなく、精度のいい高級なオルゴールを金持ちに売ってもいい。明らかな格差を見せつければ、金持ちたちは気分を良くするだろうね」


「そこまで気を遣わないといけないですか?」


「そこまで気を遣うからこそ、良いカモフラージュになるんだ」


「……カモフラージュ」


「金持ちたちが気を良くしているうちに、オルゴールは徐々に庶民の間で浸透していく。もっと安いオルゴールも作られることだろうね。そうして、いつの間にかオルゴールは普通にあるべきものになっていく」


「普通に。……良いですね」


「ああ、良いだろう?」



作曲家の男がにかりと笑う。

コウランも同意して、今後のオルゴールの普及に協力すると約束した。

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