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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第八章 ロズのオルゴール
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金属細工師たち


コウランのオルゴールは、アイゼの西部で良い評判を得た。

特に女や子供が、毎日のようにオルゴールを聴きに訪れた。

一作目のシリンダーが、誰もが知る民謡であったからだ。



「次は作曲家さんが作った曲にしましょう?」



手伝ってくれた作曲家の男に、ライラは言った。

作曲家の男は困惑したが、コウランとブラムもライラに賛同した。

そのため、二作目のシリンダーは作曲家の男のオリジナル曲となった。

その曲も評判が良く、コウランの家の周りは毎日のように人が集まるようになった。



「なるほどな。お嬢さんに頼まれてたことがどういう意味か、ようやく分かったぜ」



コウランの家に招待した石琴職人の男が、腕組みして唸った。

自らが作った石琴を叩くオルゴールを見て、素直に感嘆している。


ライラが以前、石琴職人に頼んでいたことは、金属細工師を捜してほしいということであった。

無事にオルゴールが完成したら、今度は小型のオルゴールを手に入れたかったからだ。

小型のオルゴールがあれば、ライラはいつでも音楽を聴くことができる。

アイゼにいる間も、旅に出た先でも、音楽が身近にある生活は華が咲いたようであろう。



「それで。見つかりますか?」


「もう見つけている。腕のいい職人だ」


「助かります。仕事を頼みたいので」


「やりがいのある仕事だと言っておいてやる。明日にでも来るだろうさ」



石琴職人がにかりと笑う。

ライラは深々と頭を下げた。


翌日。

石琴職人が言った通り、金属細工師が三人、コウランの家へやってきた。

ライラは金属細工師たちにも深々と礼をして、オルゴールを見せた。



「金属の部品を加工して……このオルゴールより小さなものを作れと?」


「そういうことです」


「どれほどの小ささをお求めで?」


「手のひらほどです」


「て、手のひら??」



金属細工師たちが驚きのあまり数歩退いた。

予想よりも遥かに小さいものを要求してしまったらしい。

やはり無理なのかと、ライラは内心俯いた。


しかしライラの心を見抜いたのか。

金属細工師たちの目つきが変わった。

水の力で回るオルゴールを真剣に見て回り、話し合いはじめた。



「……お前、ガッカリしすぎだろ。もう少し隠せよ」



ブラムがライラの頭をコツリと打った。



「そんなに態度に出てました?」


「顔面にはっきり書いてんだよ。『なんだ、大したことない職人だな』ってよ」


「……そんなことも思ってません」


「思ってるように見えたんだよ。残念だったな。おかげさまで職人魂に火が付いたらしいぜ」


「えええ……、なんだか私が悪い人みたいじゃないですか」


「まあ、善人ってわけでもねえな」



ブラムが揶揄うように言う。

反論はできないと、ライラは口を噤んだ。


そうして、小型のオルゴール作りが始まった。

作業は困難を極めたようであったが、中断となることはなかった。

原形となるコウランのオルゴールがあるからだ。

どれほど手間がかかろうと、仕組みさえ分かっていればなんとかなる。



「報酬の前金も頂きましたしね」



金属細工師たちが、してやられたといった顔で笑った。

作曲家の男と同様、ライラは金属細工師たちにも十分すぎる報酬を払っていた。

そのためか。金属細工師たちの気力は満ち満ちていた。

むしろライラが望む以上のものを作ってみせると、息巻くときもある。



「そういえば」



すっかりオルゴール工房となってしまったコウランの家で、ペノがライラにささやいた。



「パーウラマ地方に、魔獣が出たってね」


「魔獣、ですか? 魔物じゃなくて?」


「そう、魔獣。人間側の討伐隊が、全滅したってさ」


「そんなに強いのですか??」


「そりゃあ、そうだよ! 魔獣だもんねえ!」



ペノが愉快そうに笑う。

なにが面白いのかと、ライラは眉根を寄せた。


魔獣。

魔力が主体の生命体なのだと、ペノが言った。

対して魔物は、魔力を持ったただの動物なのだという。

そう言われてもピンとこないライラは、どれほど違うのかと尋ねた。



「ざっくり言えば、魔物の千倍くらい強いのが魔獣だよ」



さらりと、ペノが答えた。

あえて百倍と言わず、千倍と答えたあたり、魔獣がどれほど強いのかライラにも分かった。

とにもかくにも、絶対に出会ってはならない存在ということだ。



「戦争も収まりつつあるというのに……嫌な話ですね」


「まあねえ。だからこそ、かもしれないけどねえ」



ペノが目を細める。

魔族が魔獣を生みだして、人間を襲わせていると言いたいのだろうか。

それとも、この世界が乱れつづけていることを望む存在がいるということなのだろうか。

どちらにしても、醜悪な話だ。考えたくもない。

ライラは心の内で耳を塞ぎ、金属細工師たちに目を向けるのだった。

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