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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第八章 ロズのオルゴール
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歪の端


指輪の魔法の効果通り、男は作曲家であった。

しかし真面な仕事はなく、借金まみれ。

妻には逃げられ、借金取りに追われる日々を送っていたという。



「作曲家さんってみんな、お金持ちの方と仲良しなんじゃないんですか?」



ライラは不思議そうに首を傾げた。

作曲家の男が恥ずかしそうに俯く。



「はは……カネもコネもない作曲家や音楽家も、いるんだよ。つまり、そう……独学とか、金持ちのセンスに合わないとか、ね」


「独学の……コウランさんと同じ、ですね」


「コウラン? 誰だい?」


「えっと、その、コウランさんは今、私と仕事をしている方でして」


「へえ、その人も売れない音楽家なのかい? 君は若いし、カネも持ってそうなのに、妙なのと付き合ってるんだね」


「あ、はい、その……実はですね――」



ライラは作曲家の男に、オルゴールの話をした。

音楽を今よりもっと庶民の身近なものにしたいという、コウランの想いも一緒に。


作曲家の男は最初、興味無さそうに聞いていた。

しかし音楽を庶民の身近なものにしたいという考えには、同調してくれた。



「不思議なもんだよ。この世の音楽ってのは」



作曲家の男が俯き、声をこぼす。



「庶民でも、歌は歌う。ちょっとした楽器だってある。だけどね、なぜか真面な音楽や楽器は、庶民の手の中には無いんだよ。奪われるようにね」


「……奪われる?」


「そう、まるで神様が奪ってるみたいだって俺は思ってる。……そうだな。例えるなら、子供にはまだ早いって、親が躾けるような感じかな」


「……なるほ、ど?」


「はは。まあ、なんとなく、そう思うだけさ。話が脱線したね。気にしないでくれないか」


「……あ、はい」



苦笑いした作曲家の男に、ライラは思わず頷いた。

しかし心の内には、作曲家の言葉が引っ掛かったままとなった。

神様がどうこうと聞いて、すぐさまペノのことを考えたからだ。

もしかするとこの世界は、自分が思っている以上に奇妙な世界なのではないか。

幾つもの歪が絡み合い、なんとか成り立っているのではないか――


考えている最中、ライラの頬をなにかが打った。

ライラははっとする。

作曲家の男がライラに話しかけていて、ぼうっとしていたライラをペノの耳が打ってくれたのだ。



「……どうかしたかい?」


「あ、いえ。ちょっと、ぼうっとしてしまって」


「はは。いや、ごめん。俺が変な話をしたせいだね。本当に気にしないでくれよ」


「いえ、こちらこそ。……それで、その、作曲家さんにお願いしたいことがあって」


「大体予想は付くね。オルゴール作りを手伝えばいいのかい?」


「は、はい。もちろん、報酬も用意しています」



そう言ってライラは、持っていた袋の中に手を入れた。

作曲家の男に払う前金を想像し、「お金に困らない力」を使う。

袋の内に、ずしりと金貨の重みが加わった。



「こちらは、前金です。オルゴールが完成したら、残り半分をお渡しします」



ライラは袋の中から金貨を取りだし、見せる。

金貨の数は、十枚。

作曲家の男の表情が、一瞬で変わった。



「……こんなに貰えるような……大きな仕事なのかい?」


「その後もつづけて手伝っていただけたら、報酬を弾みます」


「はは……とんでもないお嬢さんだ。いや、幸運の女神か、俺にとっては」


「ということは、契約成立、ですね?」


「ああ、宜しく頼むよ」



作曲家の男が握手を求めてくる。

ライラはその手を取り、大きく頷くのだった。

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