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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第八章 ロズのオルゴール
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時を超えて繋ぐ


家に入ってすぐ、ライラは街で買った菓子をテーブルに広げた。

菓子の香りが屋内を満たす。

合わせて淹れたお茶に、三人はほうっと息を抜いた。



「こうしていると、父のことを思い出します」



コウランが粉を挽く石臼を眺めて、声をこぼした。



「こうして、一緒にお茶を?」


「そうですね。父は働き者でしたが、こうしてよく休んでいました」


「働き詰めだと、気力がなくなりますからね」


「……ほとんど働いてねえお前が言うんじゃねえよ」


「そういえばそうでした」



ブラムの揶揄いに、ライラは苦笑いする。

釣られてコウランも、愉快そうに笑った。


そういえば最近、コウランはあまり緊張しなくなってきたなとライラは思った。

余裕が出来たのか。それとも自信を持つようになったのか。

オルゴール作りを通して、父や過去を思い返すからか。

いずれにせよ、好青年になりつつある。

顔立ちも良いので、この状態がつづけば女性から好感を得られるようになるのは間違いないだろう。



「レイテさんは、ロズの葉をご存じですか?」



コウランの顔をぼうっと眺めるライラを、声がつついた。

ライラははっとして、邸宅の庭にあるロズの木を思い出した。



「あ、あー……知っています」


「ロズの空色の葉は、綺麗な音が鳴ります」


「そう、ですね」


「あの葉で作られた楽器の音色は、天使の歌声だとも言われています」


「……それは、聴いてみたいですね。高そうですが」


「とても高価です。でも実は、この家にあるのですよ」



そう言ったコウランが、奥の棚から木箱を持ってきた。

木箱は古びていて、高価な物が入っているとは思えない代物であった。

訝しむライラに、「盗まれないようにするためですよ」とコウランが笑って言った。

なるほどと、ライラは頷く。


開けた木箱の中には、笛が入っていた。

ロズの空色の葉は、どこにも見当たらない。



「笛の中に仕込まれているのです」


「なるほど……振動させると、葉の音が鳴るからですね」


「そういうことです」



コウランが微笑んで、笛をかざした。

そうして、笛の先をそっと擦り、ゆっくりと吹く。


澄み切った音が、静かに流れた。

ただ吹いているだけで、音楽として奏でられているわけではない。

それなのに、心身が洗われるような心地になった。

まるで、花や光が歌っているかのようだ。



「……こいつはとんでもねえな」



ブラムがため息を吐く。

釣られて、ライラもため息を吐いた。

息を吐くたび、笛の音が身体に取り込まれ、清めてくれている気がした。



「……ボクが音楽を好きになったのは、父が作ってくれたこの笛のおかげです」


「発明家になったのも、その笛のおかげですね」


「はは……。まだ、どちらも中途半端ですけどね」



コウランが苦笑いして、笛を置く。

ライラはコウランに断ってから、笛を手に取った。

笛の外観は、どこにでもあるようなものであった。

振ってみると、ロズの静かな音が微かに鳴った。



「……これって、私の家にあるロズの葉でも、使えるでしょうか。ねえ、ブラム?」


「あ? いや、知らねえよ。俺は職人でも音楽家でもねえんだぞ」


「まあまあ、とりあえずやってみませんか?」


「……いいけどよ、この笛に追加でねじ込むってのか?」


「違いますよ。シリンダーに入れるんです」



ライラは新しく作った水車と、製作途中のシリンダーを指差した。

するとブラムより先にコウランが目を輝かせた。



「やってみましょう! 恥ずかしながら……シリンダーがどうしても歪になって、回転するときに異音が鳴るんです。その異音を誤魔化してくれるかも……!」


「では、明日持ってきますよ。それまでコウランさんはお休みです。いいですね?」


「はは。そうします。明日のことが気になって、眠れなくなるかもしれませんが……!」



コウランがにかりと笑う。

ライラは明日もまた菓子を買ってくると約束して、微笑み返すのだった。

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