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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第七章 アイゼの発明家
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工場にて

ライラの邸宅に着いて、翌日。

一晩じっくり考えてみたライラは、やはり何も思いつかなかった。

ブラムも同様らしく、ぱっとしない表情で朝食を食べていた。



「ブラム。今日もコウランさんのところに行くの?」


「気が向いたらな」


「その時は私も行っていい?」


「馬車で、か?」


「もちろん馬車で」


「それならちいっとばかり行きたいところがある。先にそこへ行かねえか」


「良いですけど、どこですか?」


「行けば分かる」



ブラムが素っ気なく言い、食事をつづける。

ライラはそれ以上尋ねることなく、一緒に朝食を取った。


陽が高くなったころ。

唐突にブラムがライラの部屋へ入ってきた。

出掛けるからとっとと準備しろということらしい。

部屋着のままであったライラは、苛立ちながらも急いで外出の準備をした。



「御者さん。馬車を玄関前に回してくれますか」



着替えを終えたライラは、顔色の悪い御者に声をかけた。

特にやることもなくぼうっとしていた御者が、小さく頷いた。



「東部に行ってくれねえか」



ライラと共に馬車に乗ったブラムが、御者の肩をとんと叩いた。



「……御意」


「悪いな、時間はかけねえからよ」


「何か買うの? ブラム」


「まあな。大したもんじゃねえよ」



朝と同じく、素っ気なく答えるブラム。

どことなく、気恥ずかしそうにしている気がした。

察したペノがブラムの膝の上に乗り、揶揄いはじめる。

鬱陶しかったのか。ブラムがペノの両耳を掴み、ライラの膝の上へ放り投げた。


アイゼの東部は、職人たちが集まる区域であった。

店もあまりなく、人通りは少ない。



「ここには初めて来ました」


「だろうな。お嬢様が来るようなところじゃねえ」



そう言ったブラムが、御者になにか指示を出した。

目的の場所に着いたらしい。

御者はブラムの言う通りに、目的地の工場の裏手へ馬車を回した。



「木材加工をしている……工場ですか?」



馬車を降りたライラは、首を傾げて工場を覗く。

工場の壁際には、多量の木材が並べられていた。

その木材のひとつを、職人が運んでいる。



「楽器を作ってる工場だ、ここは」


「楽器を? 木材で?」


「木材だけじゃねえだろ。あそこに石材もある」


「……あれ、材料なのですか」



ライラはブラムが指差した石材を見て、ぽかりと口を開けた。

たしかに多量の石が置かれているが、材料と言われなければ気付かない。

未知の領域に過ぎる場所に、ライラは呆然とせざるを得なかった。



「俺が欲しいのは、あそこにある楽器だ」



ぼうっとしているライラの肩をブラムが叩く。

ライラははっとして、工場の奥を見た。

そこには加工した木材と石材で組み上げられた、楽器があった。



「木琴、ですか?」


「馬鹿が。石琴だ」


「馬鹿って言わないで」



ライラは頬を膨らませ、ブラムの腕を抓る。

ブラムが両手のひらをライラに向け、工場の奥へ行くようライラを促した。



「おう、ブラム。頼まれていたやつあ、仕上がってるぜ」



出来上がった石琴を前にしていた職人が、ブラムに手を振ってきた。

ブラムが職人に感謝を伝え、石琴をそっと撫でる。



「悪いな。俺には良い出来なのかどうか分からねえがよ」


「良い出来に決まってんじゃねえか」


「そう信じるぜ。金は持ってきた。今日このまま持っていく。裏に馬車があるから、そこに運んでくれよ」


「あいよ」



職人がにかりと笑う。

そうして傍にいた別の職人に声をかけ、石琴を馬車へ運ばせた。

石琴は思いのほか重いらしい。

二人がかりで運ばれた石琴が馬車に載ると、人が乗った時以上の軋む音が鳴った。

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