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どんな時でもお金には困りません!  作者: 遠野月
放浪編 第七章 アイゼの発明家
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音楽の在るところ

コウランが見せた発明品は、無価値といって差し支えないものばかりであった。

これから作ろうと考えているものも、漠然としたものばかり。

ライラが支援できるものなど、無いに等しかった。



「私にどうしろと言うのです」



帰り道。

迎えに来た馬車の中で、ライラは頭を抱えた。



「やっぱ無理かよ」


「無理も何も。発明家を辞めたほうがいいと思います」


「笛を吹く人形は、良い線いってると思ったんだがよ」


「あれは吹いているだけで、演奏していないですから。しかもほとんど音が鳴っていませんでしたし」


「だけど、ペノのやつは愉快そうに見てたぜ?」



ブラムがライラの肩にいるペノを指差して言った。

するとペノが大きく頷く。



「あっははー! 彼はなかなかの逸材だよ!」


「どこがです?」


「ゴミをゴミ以下にできる才能がね!」



ペノが思い出し笑いをする。

ブラムがペノの言葉に同意し、ため息を吐いた。

しかし、なぜか。

ライラはコウランのことが気になった。

ブラムもそうなのだろう。

だからこそ、どうにもならなそうなコウランを助けたいと言いだしたのだ。

ライラの心の内にも、このまま放ってはおけないという想いが芽生えている。



「まあ、コウランさんの考えは賛同できますよ」



ライラもため息を吐き、ブラムを見た。

「そうだな」とブラムが頷く。


コウランの発明意欲は、主に音楽に関することから生まれていた。

音楽をもっと庶民の身近なものにしたいと、コウランは心から願っているのだ。

というのも、この世界の音楽は主に金持ちのものであった。

楽器を演奏できる者、楽譜を読める者はみな、金持ちや貴族が召し抱えてしまう。

そのため庶民は、洗練された音楽を楽しむ機会がなかった。



「楽譜を読む勉強も、楽器の練習も、楽器そのものまで、ぜんぶお金持ちの道楽扱いですからね」


「道楽か。まあそうだな。庶民が持ってる楽器なんざ、微妙な音がする手作りの笛ぐらいだ」


「本当に、不思議な世界ですね」



ライラは馬車の外を覗く。

生まれ変わる前の世界では、音楽はもっと身近な存在であった気がした。

安くて質のいい楽器もあったはずである。

そうした“違い”のひとつを目の当たりにすると、やはり異世界なのだとライラは改めて思った。

もちろん、悪い違いばかりではないのだが。



「何か良いアイデアはないのかよ」



ブラムがライラの顔を覗き込んだ。

ブラムからすれば、ライラが時折思い付くアイデアは斬新なものなのだ。


しかしライラは首を横に振った。

ライラが思い付くそれらは、ライラが生まれ変わる前の世界の知識なのである。

その知識は、気軽に取り出せるものではなかった。

いずれの知識も曖昧で、夢の中の出来事を思い出すようなものであった。



「ライラがそんなに都合よく面白いことを思い付けると思う?」



ペノが揶揄うように言った。

たしかにそうだと、ブラムが唸る。

ふたりの言動にライラは苛立ったが、反論は出来なかった。

まさにその通りであるからだ。



「どうせ商売も出来ないダメ人間ですよーだ」


「商売だけじゃないけどね!」


「うるさいなあ、もう」



ライラは耳を塞ぎ、ブラムとペノから目を逸らす。

やれやれといったようなため息をブラムが吐いた。



「まあ、俺も考えるからよ。ライラも考えておいてくれねえか」


「……考えるだけなら」


「それでいい。今日は悪かったな」



ブラムがライラの頭に、とんと手を乗せた。

ライラは頬を膨らませたが、仕方なしと、小さく頷くのだった。

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