冬と経済と恋
皆さま、初めまして!鷲津飛一と申します。
全年齢の方では、初投稿となります。
さて、実はこの作品、小説ではないんです!(笑)
これは、とある美少女ゲームメーカーさんのシナリオライターテストに僕が実際に送ったゲームシナリオなんです。
結局その企業様とはご縁がなかったので、このまま削除するのでなく、記念にここに残しておこうと思い、投稿させていただきました。
小説ではないし、元々はここに投稿する用に執筆した作品ではないので、軽い暇潰し程度の感覚で読んで頂ければ幸いです。
それでは!
図書室
孝則
「ふんが~~~。……ほへ?」
自分のあまりの大きないびきに、俺は目を覚ました。
俺の名前は吾妻孝則。
ここ白王高等学校に通う、二年生だ。
趣味は寝ること。特技は寝ること。
まあ要するに、学校の問題児の一人というわけだ。
俺は辺りを見渡す。
家に帰っても特にやることの無い俺は、放課後は図書室で寝るのが日課だ。
今日も図書室は誰も居ない。
つまり、俺のうるさいいびきを咎める者はいないというわけだ。
なんなら、受付に図書委員の人がいないこともざらだ。
全く、ちゃんと働けよ。
そう思いながら、二度寝につこうとした時であった。
理恵
「お目覚めですか?」
暗転
イベントCG・出会い
……なんか知らんが、美女に声を掛けられた。
青髪のロングヘアーをたなびかせながら、俺の顔を覗き込む美女。
あと、前傾姿勢になっているから、乳が腕で寄せられてダイナミックなことになっている。
このままだと、俺の股間もダイナミックなことになってしまう。
結果、席から立ち上がれなくなってしまった。
孝則
「え?ええ……まあ……」
ほんとは二度寝するつもりだったけど。
理恵
「ふふ、凄く気持ちよさそうに熟睡されていたので、起こすかどうか迷っていたんですけど」
理恵
「快適にお目覚めされたのでしたら、何よりです」
孝則
「……………」
ええ!?なにこの美女!?
こんな娘、図書委員に居たか!?
それにいきなり話しかけてきて、もしかして俺のこと好きなの!?
オーケー、落ち着け、ミスタータカノリ。
そういう童貞丸出しの思考はやめろ。……事実そうだけど。
ちょっと話しかけられて好きになっちゃうほど、俺はやわな男じゃない。
俺は彼女と目を合わせる。
理恵
「……?ふふ、いかがなさいましたか」
好きだーーーーーーーー!!
やべぇ、完全に俺のタイプだ!ド直球だ!!ストレート166km/hだ!!
こういう大人のお姉さん的な女性に弱いんだよなー、俺。
そしてよく見れば、制服に付いている胸元のリボンで学年が分かった。
この学校は、学年ごとにリボンの色が違うのだ。
彼女は、三年生。一個先輩だ。
そして胸のネームプレートには、「時崎理恵」と記されていた。
孝則
「ああ……いや、あの……」
思わずキョドる俺。ああ、童貞なのが悔しい……。
理恵
「そろそろ日も傾いてきましたし、暗くならないうちにお帰りになられた方がよろしいかと」
優しい口調で言う彼女。
その口ぶりは図書館の司書と言うより、メイドさんや秘書に近いかもしれない。
孝則
「ああ……は、はい……」
結局ろくに会話できず、俺は帰り支度を始めるのであった。
ああ、俺に女性を口説ける度胸と話術があったらな……。
俺はバレンタインに、義理チョコすら貰ったことがない。
汚れを知らないアルティメットチェリーボーイ(究極の桜桃少年)な自分が、いたく惨めに思えた。
荷物をバッグに詰めて出口へと向かうと、受付のカウンターで時崎先輩が本を読んでいた。
孝則
「……………」
勇気を出せ、ミスタータカノリ!
少しでも会話をして、自分のことを覚えてもらうんだ!
二人きりで話せるこんなチャンス、二度とないかもしれない。
このまま一生童貞を貫いて、魔法使いにでもなるつもりか!
俺は震える足取りで時崎先輩に近付き、声を掛けた。
孝則
「な、何を読んでいらしているのでしょうか?」
なんか言葉がおかしかった気がするが、とりあえず言えた。
時崎先輩は一度優しく微笑み、読んでいた本を閉じて、表紙を俺に見せてくれた。
そこには、「銀行迷宮 著・水山周平」と書かれていた。
孝則
「経済小説っすか……。し、渋いっすね……。」
ギャップのあまり、ちょっとだけ引いてしまった。
理恵
「えへへ………」
時崎先輩は頬を赤らめて、はにかんで笑って見せた。
ああ、可愛い。今すぐに抱きついて、頬をスリスリしたい。
いや落ち着け、ミスタータカノリ。ここで性犯罪者になるわけにはいかない。
孝則
「それじゃあ、さよなら……」
犯罪に手を汚す前に図書室を後にしようとしたところで、
孝則
(ん……?)
俺はとんでもないことを思い出した。
そして、鬼気迫る表情で時崎先輩の手を握った。
理恵
「きゃあっ!?ど、どうかされたのですか?」
孝則
「時崎先輩……お願いがあります……」
神妙な表情で、俺は言った。
孝則
「俺に経済を教えてください!!」
理恵
「…………へ?」
素っ頓狂な彼女の返事が、妙に図書室に響いて聞こえた……。
暗転
イベントCG・勉強会
理恵
「ああ、違うわ。その問題の答えは、4番のキャピタルゲインよ」
俺は今、時崎先輩に経済の勉強を教えて貰っていた。
同じテーブルで、隣に座っている時崎先輩からは、何か甘い香りが漂っていた。
マズい……また俺の股間が、株価上昇してしまうかもしれない…。
この白王高校には、世にも珍しく、高校の授業の科目に「経済・経営」があるのだ。
寝ることが生きがいの俺は、当然ほぼ全ての授業で居眠りしている。
最初は教師たちもブチギレていたが、どれだけ怒っても改善されない為、皆諦めて、最近はとやかく言わなくなってきた。
ぶっちゃけ、一夜漬けすれば、赤点は回避できるし。
しかし、そんな俺にも苦手科目があった。
それが、「経済・経営」であった。
中間テストで赤点を取ってしまった俺は、なんとしても期末テストで挽回しなくてはならなかった。
でないと、俺の冬休みが無くなってしまう……。
理恵
「そこも違うわね。その答えは、融資約束よ」
理恵
「銀行員が、稟議も通っていない段階で、融資の約束をしてしまう……いわばルール違反なの」
孝則
「へえー、そうなんだ」
理恵
「ちなみに、企業Aに融資できない場合、企業Bを挟んでAにお金を貸すのを、迂回融資と言うの」
理恵
「当然これもルール違反よ。よくテストに出るから、覚えておいた方がいいわ」
時崎先輩の教え方は、凄く分かりやすかった。
「人に分かりやすく説明するためには、人の10倍、その分野を知り尽くしてなければできない」と昔聞いたことがある。
時崎先輩は、それだけ経済に精通している、というわけか。
理恵
「あの…吾妻君?問9の答えなんだけど……」
孝則
「ん?ベンチャーファンドですけど…」
理恵
「ええと……ベンチャーキャピタルとバルチャーファンドが混ざっちゃっているわね……」
孝則
「違うんすか?」
理恵
「んー、本質的には似通っている部分もあるのだけれど、やはり別物として覚えておいた方がいいわね」
孝則
「はへー」
理恵
「…って、問14の答えはハゲタカファンドよ!?ハダカファンドではないわ!?」
顔を真っ赤にして指摘する時崎先輩。
下ネタには耐性が無いのかもしれない。
孝則
「どっちも同じようなものでは……」
理恵
「どんな破廉恥な投資ファンドですか……」
呆れた顔で言う時崎先輩。
でも、俺に勉強を教えるのがイヤそうには見えなかった。
寧ろ経済を語っている時の彼女の瞳は、出会った時よりも煌めいていた。
……楽しい。
勉強を楽しいと感じたのは、生まれて初めてだ。
孝則
「時崎先輩は、いつもこうして友達に経済とか教えてるんですか?」
刹那、時崎先輩の顔が引きつった。
あれ?もしかして俺、地雷踏んじゃった?
理恵
「……………友達と呼べる程の親しい人は居ないわ」
悲し気に笑う時崎先輩。
孝則
「ええ!?どうして」
率直な疑問であった。
理恵
「私、何をやってもマイペースというか、どんくさくて……ノリが悪い、とかよく言われるの」
理恵
「そのくせ、やたら経済学だけ詳しくて……クラスメイトからは気味悪がられているの」
孝則
「……………」
理恵
「今日だって、私は本当は図書委員じゃないのに、仕事を押し付けられちゃって……」
自虐的に笑う彼女。
理恵
「まあ、本は好きだから、嫌だったわけではないのだけど……」
孝則
「時崎先輩……」
理恵
「ん?何かしら?」
孝則
「これからも俺に、経済を教えてくれませんか?……せめて、期末テストまで…」
理恵
「え?」
時崎先輩はキョトンとした顔を浮かべた。
理恵
「それは構わないけれど……吾妻君は良いの?私と居ても、楽しくないでしょう?」
孝則
「とんでもない!!俺、今まで勉強してきて、今日ほど楽しいと思ったことありません!」
孝則
「もっと……時崎先輩と一緒に居たいです!!」
言った後で、自分がとんでもないことを口走っていることに気が付いた。
うわ、俺なにキモいこと言ってんだ、死にてぇ……。
時崎先輩は顔を真っ赤にして俯いている。
……あれ、ドン引きされていない……?
理恵
「わ、私で……」
孝則
「え?」
小声で時崎先輩が何か言った。
理恵
「私で良かったら……いいよ?」
孝則
「!」
今度ははっきりと聞こえた。
孝則
「よろしくお願いします!」
それから俺たちは、毎日のように放課後、図書室で勉強した。
この時間が、永遠に続けばいいのにと願いながら……。
暗転
学校の廊下
孝則
「はあ……はあ……」
あれから一ヵ月が過ぎた。
そして今日は、期末テストの結果が返された日。
俺は一刻も早く時崎先輩に報告する為、廊下を駆けていた。
途中、先生から注意されたが、そんなことはどうでも良かった。
今はただ、一秒でも早く先輩に会いたかった。
暗転
図書室
孝則
「先輩!」
威勢よく図書室の扉を開ける。
時崎先輩は、部屋の奥でテーブルに座り、普段通りに経済小説を読んでいた。
相変わらずこの学校の図書室は、俺たち以外誰も居ない。
俺を見るや、彼女はにこりと笑った。
理恵
「吾妻君、待ってたわよ。でもまずは、呼吸を整えてからね?」
俺の息が上がっているのを見て、深呼吸をするよう促す先輩。
俺は呼吸を整えて、言った。
孝則
「経済学……95点取れました!」
理恵
「わあ!すごいじゃない!!吾妻君、勉強頑張ってたものね!」
まるで自分のことのように先輩は喜んでくれた。
もちろん、他の教科も赤点は無かった。
理恵
「ほんと……よく頑張ったわね……」
時崎先輩の目尻に、涙がたくわえられていた。
孝則
「ちょっ、なんで先輩が泣いているんすか!?」
理恵
「だって……吾妻君、私の勉強会、あんなに頑張ってくれていたから……」
理恵
「もし赤点を取ってしまったら、私、なんて言って吾妻君に謝ればいいか、ずっと不安で……」
孝則
「……………」
どこまで良い人なんだ、この人は!
孝則
「仮に赤点を取ってしまったとしても、それは時崎先輩のせいじゃないです!」
孝則
「俺、本当に感謝しているんです。こんな俺の為に、毎日勉強教えてくれて」
孝則
「俺、物覚え悪いから、かなり先輩に負担かけちゃったはずなのに、先輩は嫌な顔一つしないで」
孝則
「だから俺、先輩に笑ってほしくて…喜んでほしくて頑張りました」
理恵
「吾妻……くん……」
孝則
「だから先輩……笑ってください」
理恵
「……うん」
時崎先輩は、涙を指で掬いながら、最高の笑顔を見せてくれたのであった……。
暗転
雪の降る通学路
理恵
「今日は遅いから、明日お祝いのパーティーをしましょう」
孝則
「は、はい!」
ここ最近、俺たちは一緒に下校していた。
それだけでも俺は、先輩の恋人気分を味わえていた。
でも……。
やっぱり、本当の恋人になりたかった……。
この期末テストで良い点を取れれば、自分に自信がついて、想いを伝えることができると思っていた……。
だけど……。
孝則
「……………」
想いを伝えようとすると、口が鉛のように重たく感じて、開かなくなってしまう。
クソ!なんて情けないんだ、俺は……。
理恵
「もうすぐ冬休みだね。吾妻君は、何か予定とかあるの?」
孝則
「え?俺ですか?俺は特に何も……」
理恵
「ふーん。デートとかしないの?」
孝則
「いえ……そんな相手いませんし……」
本当は、先輩とデートがしたい。
なのに、告白はおろか、デートに誘う勇気すら俺には無い……。
いや、そもそも先輩はどうなのだろう?
デートする相手がいるのだろうか?
先輩に彼氏がいるかどうかさえ、俺は知らない……。
聞くんだ……せめて、それだけでも……。
孝則
「せ、先輩は……」
理恵
「ん?」
孝則
「先輩は、いるんですか?デートする相手とか……」
勇気を振り絞って聞いた。
理恵
「んー……」
先輩は暫し考え込んで、
理恵
「したい人なら、いるよ」
と言った。
孝則
「!?」
終わった……。
先輩には、好きな人がいたんだ……。
仮に今俺がここで告白したって、先輩の迷惑になるだけだ……。
だったらいっそ、伝えない方が良いんだ……。
そう思っていた時であった。
理恵
「私ね……」
先輩が、意外なことを言い出し始めた。
理恵
「本当はずっと、学校が大嫌いだったんだ」
孝則
「え?」
急に、何を言ってるんだ……?
理恵
「一緒にお弁当を食べる相手も、放課後や休日に遊びに誘ってくれる友達もいなかったから」
理恵
「でもね、ある時からそんな考えが変わってきたの」
先輩は、俺の方をちらりと見る。
理恵
「いつも寝てばっかりいる、ちょっと不真面目な後輩クンに出会ってから……」
孝則
「え……」
理恵
「最初はちょっと警戒したよ?だって、いきなり人の手を握ってくるんだもん」
理恵
「でもいざ勉強を教えたら、すっごく真面目に取り組んでくれて」
理恵
「私が好きな、難しい経済のことを話しても、しっかりと話を聞いてくれて」
理恵
「そして、放課後になったら必ず、約束の場所に来てくれて……」
先輩はふと、空を仰ぎ見た。
理恵
「私は三年生だから、冬休みが終わったら、いよいよ本格的に卒業シーズンなの」
孝則
「!?」
そうだ……卒業……。
この楽しい日々は、永遠には続かないんだ……。
ああもう、俺、泣きてぇ……。
理恵
「卒業ってのを強く意識したらね、凄く嫌な気分になったの」
孝則
「え……?」
理恵
「だって……この楽しい日々が、永遠には続かないんだ、て気付いたから」
俺と……同じことを……。
理恵
「卒業しちゃったら、もうその後輩クンと一緒に勉強できないんだ、て思ったから」
理恵
「そんなの、絶対に嫌だったから……」
先輩は足を速めて、俺の前に立つ。
俺に背を向けたまま……。
イベントCG・告白
理恵
「だから……言うね?」
ゆっくりと先輩は振り返り、俺の目をまっすぐに見つめる。
降り注ぐ雪が、彼女の髪を白く輝かせていた。
今まで見たどの彼女よりも……今の先輩は美しかった。
理恵
「吾妻孝則君……これからも、私と勉強会してくれますか?」
理恵
「私の隣で、笑ってくれますか?これからも……卒業してからも、ずっと……」
孝則
「先…輩……」
先輩は、直接的な言葉で自分の気持ちは言わなかった。
それでも、彼女が言いたいことは、鈍感な俺でも充分過ぎるくらいに伝わった。
女の子にここまで言わせといて、自分がひどく情けなく思えた。
だからせめて、告白の返事くらいは、男らしいところを見せなければ……!
俺は、時崎先輩のことをぎゅっと抱きしめた。
強く……強く抱きしめた。
理恵
「きゃ!あ、吾妻君……?」
万感の思いを込めて……言った。
孝則
「必ず俺が、先輩のことを幸せにします……」
理恵
「!……うん、ありがとう……」
どれだけの時間、俺たちは抱きしめ合っていただろうか……。
やがて、時崎先輩が口を開く。
理恵
「ねえ……吾妻君」
孝則
「ん?」
理恵
「キス……して」
孝則
「!……はい」
俺たちは一度身体を離し、そしてゆっくりと、唇を重ねたのであった……。
雪の降り注ぐ夜空の下、儚げな明かりを灯す街灯が、俺たちを照らしていたのであった……。
市街地
孝則
「はあ……はあ……」
今は冬休み。
そして今日は、理恵さんとのデート初日であった。
なのに……。
孝則
「遅刻だーーーーー!!」
俺は大急ぎで待ち合わせ場所の駅前へと走っていた。
ようやく理恵さんの姿が見えた。
孝則
「理恵さん、ごめん!寝坊しちゃった!!」
頭を深々と下げて謝罪する。
いや、ここは土下座か?
それとも更に進化形態の土下寝か!?
理恵
「んもう、孝則君。私怒ってるんだよ?」
孝則
「ほんとにごめん!もう二度と寝坊しないから!!だから、嫌いにならないで!!」
理恵
「もう!怒ってるのはそこじゃないよ」
孝則
「……へ?」
何だ?じゃあ一体、何に怒っているんだ?
理恵
「孝則君が待ち合わせに遅刻してくるのは、予想通りだったもん。そ、れ、よ、り!」
ああ、予想通りだったんだ……。不甲斐ない……。
理恵
「さっき私のこと、理恵さんって呼んだでしょ」
理恵
「私、前言ったよね。彼氏なんだから、堂々と呼び捨てで呼んでって」
孝則
「いや、だって……理恵さんは年上だし……あ」
また言ってしまった。
うう……理恵さんの顔がみるみる険しくなっていく…。
理恵
「ほら、男の子なんだから、シャキッと彼女の名前を呼んで」
理恵
「でないと、私、帰っちゃうわよ?」
孝則
「ええ!?そんな……」
うう……仕方ない。ここは覚悟を決めるしかない。
俺だって男だ。やってやらぁっ!
孝則
「それじゃあ……」
声が震えるのを必死に堪え、手を差し伸ばす。
孝則
「早く……映画館行こうぜ?……理恵」
理恵
「!……うん!」
満面の笑みを見せ、理恵は差し出した俺の手を取るのであった……。
暗転
映画館内
理恵
「人が多いね……」
孝則
「まだ公開して間もないからな」
俺たちの初デートは、映画館であった。
そこだけ聞けば、まさにデートの定番と言えるだろうが、問題はその映画の中身だ。
映画の名前は「ホライズン」。
ざっくりとあらすじを言うと、とある企業の買収(M&Aというらしい)を巡る物語だそうだ。
アメリカのハゲタカファンドと、日本の勇敢な一銀行員が戦うらしい。
原作の小説の作家は、「水山周平」。
まあ要するに、経済ドラマの劇場版だ。
初デートの映画がこれって……若者と言うより、熟年カップルのデートのような気が……。
とは言え、隣に居る俺の恋人は、目を輝かせて上映を心待ちにしている……。
なんなら俺と居る時よりも目が輝いてないか?
まあ、小説や映画に嫉妬しててもしょうがないか……。
孝則
(何より、理恵が楽しいのなら、俺はそれだけで満足だ)
辺りが暗くなり、いよいよ上映が始まった。
とにかく、寝ないようにだけ注意しよう。
一緒に映画を見てるのに彼氏が寝てたら、女の子はブチギレるらしいからな……。
暗転
映画館内
孝則
「めっちゃ面白かったーーー!!」
理恵
「ふふん、そうでしょ?」
理恵がドヤ顔で言う。
いや正直ナめてたわ。まさか経済ドラマがこんなに面白いなんて!!
これまで理恵に経済学を教えて貰ってたから、内容がすんなりと理解できた。
それに、ああいう世界に生きる男たちの渋い生き様とか、もうシビれまくったぜ!
終盤、主人公の銀行員が親友の裏切りを許すシーンとかは、涙無しには見られなかった。
恐るべし……水山周平……。
理恵
「ねえ、この後本屋に行かない?」
孝則
「本屋?別に良いけど」
暗転
本屋内
孝則
「うおっ!?すげえ!」
理恵
「そりゃあ、今映画やってるんだもの。どこの本屋でも、こうしてポップを立てているわ」
本屋に入ってすぐに、でかでかとしたポップが立てられていた。
そこには、「鬼才・水山周平特集!!」と書かれていた。
そして、最新刊から過去に執筆されたものまで、ずらりと彼の本が陳列されていた。
孝則
「水山先生って、凄い人なんだな……」
理恵
「当たり前じゃない。過去にドラマ化されたものなんて、瞬間最高視聴率45パーセントを記録したのよ」
孝則
「45パーセント!?すげぇ……」
理恵
「あ、ほらここに、さっき見た映画の原作本があるわ」
理恵の指差した先に、小説「ホライズン」が置かれていた。
理恵
「どうする?買うの?」
意地悪げな笑みを浮かべる理恵。
付き合ってみて気付いたが、理恵には少々、小悪魔的な一面があるようだ。
さて、ここで俺がこの本を買ったら、理恵の手の中で踊らされていたような気もするが……。
孝則
「……………」
俺の腹はもう決まっていた。
暗転
駅前
理恵
「結局買ったのね。これで孝則君も、水山先生のファンの仲間入りね」
にしし、と笑う理恵。
初デートまでも好きな作家の布教活動に利用するとは……恐ろしい女だ。
孝則
「………フッ」
でも、それも案外良いものかもしれない。
この作者の本は、俺たちの関係を繋いでくれた、運命の架け橋だったのかもしれないから……。
いかがでしたでしょうか?
自分の趣味全開の、かなりクセの強い恋愛モノになってしまいましたね……。
と言うか全年齢初投稿なのに小説じゃないってマジ?て感じです。我ながらそう思います、はい(笑)
それでは、またどこかでお会いできることを、願っております!
バイバイ!