それが愛情ならば
「魔女……?」
魔女、というと心当たりはひとつくらいだ。まさかハルヴァートが唱えていた魔女のことではないだろう。魔女と言われるのはこの世界においてひとりだけ。"灰色の魔女"だ。
"灰色の魔女"とは"大崩壊"を起こした張本人、世界に仇なす大罪人だ。あの魔女が神々に不義をなしたせいで神々は怒り、この世界を見捨てた。再信の時代になってようやく神々は人間を許すようになり、現代まで付かず離れずの微妙な距離感が続いている。原初の時代のように神々と人間が睦まじくあるには"灰色の魔女"を処刑しそれでもって詫びることが必要だ。だから世界中の人々は魔女の死を望んでいる。
その世界から憎まれている人物を、俺の魔女とナツメは呼んだ。それはまるで愛しい恋人を呼ぶかのように。
ルッカという魔女殺しの立場であるにも関わらず、憎悪ではなく愛情でもって。矛盾している。
カンナの困惑を察したのか、あぁ、とナツメが声を上げる。
そうか、彼女は知らないのか。無理もない。入学して間もない新入生なのだから。ルッカという存在すらあまり詳しく知らないだろう。成程そこから説明する必要がありそうだ。
この立場と態度の矛盾について。簡単だ。
「俺はあの魔女を愛しているのさ」
「……はい?」
何を言っているんだ。目を丸くするカンナへくつくつと笑う。見事度肝を抜かれている。
誰しも聞けば最初は驚くだろう。魔女殺しのルッカが魔女を愛しているだなんて。
だが事実だ。自分は魔女を愛している。あの"灰色の魔女"をだ。本人の前でも堂々と言い放てるほど真っ直ぐに愛している。
「え、でも、ルッカですよね?」
「あぁそうだ。魔女殺し……ルッカだとも」
おかしい、と言われるのも予想通り。思った通りの反応だ。
ルッカとは魔女を殺すのが目的だ。それは正しい。そして自分もまた、魔女を殺すことを目標としている。
だが愛している。一見矛盾があるが、そこに何の矛盾もない。
「俺は魔女を殺して彼女への愛を証明するのさ」
愛する女の願いを叶えて愛を証明する。では魔女の望みとは何なのか。
入学初日の挨拶の折、書状による祝電で魔女が言っただろう。学び、育ち、そして私を殺せ、と。
あれは挑戦ではなく懇願なのだ。そう。"灰色の魔女"は死にたがっている。魔女の願いとは自らの死であり、殺してくれる人間を待っている。
だったらその願いを叶えてやる。愛する女の願いひとつ叶えてやれなくて何がルッカだ。
愛してる。だから殺す。そこに矛盾はない。愛する女の息の根を止めるために力をひたすら磨いている。
「死にたがってる……?」
魔女が死にたがっている、だなんて。それはどういうことだ。カンナが口を挟もうとしたその時。
「ナニしてるの?」
特徴のある片言が聞こえた。遅れ、ぴょこりとプラチナブロンドが揺れる。
ヴィトだ。そういえば騒動のせいで最近顔を見ていなかった。久しぶり、とカンナが言いかけた。それを遮るようにナツメが叫んだ。
「俺の魔女!」
やっと会えた恋人に駆け寄るかのようにナツメがヴィトの元へ。やっほー、とハイタッチで軽くいなされていた。
いやそれよりも。今。
「今、魔女って……」
ナツメが魔女と呼んだ。ヴィトを。はっきりと。魔女と。じゃぁつまり。
信じられないという表情をするカンナに、あー、と気まずそうにヴィトが唸る。ばれてしまった。仕方ない。腹をくくろう。
「うん。そう、ボクが"灰色の魔女"――アッシュヴィト・カーディナルシンズ・リーズベルトだヨ」
「ええええええええええええええ!?!!?!!!」




