いのちの収斂
転移魔法で校下町の外れにある小屋へと転移する。校下町の中心から大きく外れた平野の只中にそれは建っていた。
見た目は平野にぽつんと頼りなく建つ一軒の木造の小屋だ。このあたりは以前は大規模な農場であり、この小屋は農具をしまっておくための倉庫だった。土地が痩せて耕作量が落ちたことで廃棄され、空き地となった土地ごとナツメが買い取って私有地とした。
平野はそのまま見晴らしの良さを活かして侵入者の感知のために、そして農具倉庫はナツメの個人的な研究室兼保管庫として。
その小屋の目の前へと転移する。おそらく平野には侵入者を感知する諸々の警備があったのだろうがそれも無視する。
「お邪魔するヨ」
一応一言言って、小屋の扉を開ける。ぎぃ、と軋んでドアが開いた瞬間、何とも言えぬ臭いが鼻をついた。
部屋の中は暗い。だが何をしているかは一目瞭然だった。氷神の鏡で明瞭に見てしまったのだから。
室内に踏み込むことはせず、玄関口で扉を開けた状態でナツメの応答を待つ。
「――アァ、来た、ノ、か」
歪な声が空間を震わせた。ぐじゅ、と何かが潰れて汁を滲ませる音がした。
「スコ、し、待って、くれ……今、は、ヒトマエ、に、出られ、ル、格好じゃァ、ナイ……」
ごき、ばき、めり、ごきん。肉と骨が組み変わる音が響く。
しばらく暗闇の中で異音が鳴り、最後に関節の音がひとつ鳴って沈黙が降りる。
3呼吸分の静寂の後、ぺたり、と裸足が木の床を踏む足音がして暗闇からナツメが現れた。歩み寄ってきたぶん後ろに下がり、距離を取る。距離を取られたぶんナツメが歩みを進めて、ナツメが玄関からまろび出る。
扉を背にして立つナツメの姿は普段と変わらない。だが雰囲気が明らかに違っていた。
「やぁ。すまない。とてもプライベートな最中だったもので」
「ヒトを接ぐのが?」
剣呑なヴィトの言葉にもナツメは人当たりの良い笑みを崩さない。
この小屋で行われていることを知られてしまっていることは驚きに値しないようだ。当然の良い行いをしているのだから後ろ暗いことはないと言いたげに堂々としている。
「もう少しで理論を理解できそうなんだ」
破壊神メタノイアの製造理論とは"いのち"を食らって魔力として収斂することだ。言葉にすれば簡単だがこれがどうもうまくいかない。まったく別の生き物を合成するキメラの製造法の応用から始めて、内臓移植手術の知識、接ぎ木の方法と、あらゆる"いのち"の足し合わせる方法を試したが、どれも破壊神メタノイアと同等の破壊力を得られるほどには成長できない。
他に何か手段はないかと試行錯誤を繰り返してやっと理解に至れそうな段階まできた。簡単な話だった。人間は飲食して栄養を摂取するじゃないか。それと同じことをすればよいのだと。
"いのち"を食らう。食らうとは比喩だと解釈していたが文字通りの意味であった。
炎に薪をくべるように放り込んでここまできた。小さなマッチの火でも束ねれば松明に勝る。小さな炎を束ねて大火に収斂させていく。
このままいけば、いずれは世界を飲み込むほどの大火に育つだろう。そうなるかはこれから次第。だから
「協力してくれるよな?」
お互いの目標のために邪魔することなく協力する。それが同盟だったじゃないか。
うっそりとナツメはカンナに微笑みかける。これまで手を貸した恩を示すように。
「嫌です」
微笑むナツメの横っ面を叩くようにきっぱりと告げる。
当然だ。こんなもの協力できるか。間違っている。言い放てば、ナツメはきょとんとした顔をした。
「間違ってる? 失礼な。こんなにも合っているのに……」
「メタノイアの製造理論としては合っているんでしょう。でも……人の道として間違っています」
「もうイイヨ」
どうせこの言い争いは噛み合わない。平行線だ。説得は不可能。
ナツメは死ぬまでこれを続けるだろうし、殺さねば終わらない。だから殺す。
殺すのは平行線に辟易したからではない。人の道を外れた行為を止めたいからでもない。ヴィトの動機はただひとつ。
「――それはボクの地雷だ」




