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結果を得て、結論に至り、結末に向かう

真実に修飾など不要とばかりに装飾ひとつない鏡をヴィトが手に取る。


「カンナ、イイ?」

「どうぞ」


何が映ろうとも驚きはするけど否定はしない覚悟はできている。神秘学者の心得をしっかり胸の奥に据えてカンナが頷く。

じゃあ、とうつ伏せの鏡をヴィトがひっくり返した。覗き込むカンナとヴィトの顔を映さない銀の鏡はそこに真実を映し出す。


誰かの視点ではなく、第三者の視点で見る俯瞰の光景。薄暗いが、神の権能により暗闇は意味をなさずそこにあるものをくっきりと映し出す。

物置のような、仕切り壁のない一室だった。赤い水溜まりが池のように床に水の流れを描いている。赤い流れは床に落ちている肌色の塊にぶつかって向きを変える。鮮やかな赤とどす黒い赤とサーモンピンクに彩られた狂気の空間に誰かが立っている。


「……ナツメ先輩……?」


そこに立っていたのはナツメだった。返り血を浴びて真っ赤に染まり、何かをしている。その足元では何かが蠢いていた。

よく見てみれば、筋繊維に似た黒い筋が幾重にも糸を引いてナツメの下半身を覆い隠している。黒い筋繊維の隙間から白い手のような物体が見える。無数の白い手は幾重にも折り重なって繭のようにうずくまっている。


無数に折り重なった白い手。その様子にカンナは思い当たるものがあった。

そうだ。ナツメの魔力を借りてベルダーコーデックスを開いたあの時。不鮮明な映像の中にそれに似たものを見た。羽毛一枚一枚をヒトの手に置き換えた巨大な翼を。無数の白い手が折り重なって白い翼を形成していた様子を。


――まさか。


「……まさか、ナツメ先輩……!!」


その考えに至ってしまったのか。驚愕のあまり息を呑んだ。

ベルダーコーデックスで読んだ真実。それは破壊神メタノイアの製造方法だった。覗き見た真実はおぞましい製法を提示してくれた。数多の"いのち"を食って紡がれた過程だ。


まさか、ナツメは『そう』なろうというのか。

愛する魔女を殺すには破壊神メタノイアに並ぶ威力が必要だと結論に至り。

ならば破壊神メタノイアと同様のものにならねばという目的のもと。

メタノイアと同じ場所に到達するために"いのち"を食おうというのか。


「……………………」


ヴィトは何も言わない。鏡に映ったものにすべてを察したようだった。

鏡を伏せて元通り箱に収め、無言で立ち上がる。


「あ、ちょっとヴィト!?」


どこに行く気だ。いやどこに行くも何もナツメのもとだろうが。

待ってとカンナが制止をかける。ここまできて自分を置いていくなんて。


「私も行く!」

「……イイヨ」


いつもの片言だが、その声は無機質な響きがあった。悠久の時で擦り切れて無感慨になったゆえの声ではなく、沸き立つ情動を耐える声だ。


「ボクには感情が無いって言ったケド、訂正するネ」


怒りって感情はあったみたいだ。


低い声で呟き、ラド、と転移魔法を起動させる。

あの建物は覚えがある。校下町の外れにある小屋だ。粗末な掘っ立て小屋の見た目に反して厳重に鍵がしてあり、ナツメはそこに旅の思い出の品や手記を保存している。研究室というほどしっかりしてはないが機能としては似たようなものだ。"灰色の魔女"がいかに不死であるかの実験もまたそこで行われた。


ナツメは間違いなくそこだ。


「"ラド"」


ヴィトが転移魔法を発動させる。カンナごと転移した。

人がいなくなった店内で、はぁ、と店主が溜息を吐く。せめて別れの挨拶くらいはしてほしいものだ。前触れもなく押しかけて挨拶もなしに帰るとはまったく。


それにしても。すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干して店主はこの先の運命を思う。

この店ではどんな願いも叶う。だがその対価は相応必要だ。その対価をどう決めるかは店主の一存。だが、先代店主から続くルールがある。

それは、後には何も残さないということだ。どんな願いも叶うからこそ、この店の存在は秘されなければならない。だから存在する痕跡を残さない。

結果として願いは叶うが、結末としては虚無であれ。それがルールだ。


その絶対のルールを踏まえてこの先を予想する。対価は払った。願いは叶えられた。ということは、この後の運命はもう決定されたということだ。


「友人を喪う。その対価はあの子も払わされるのにね」


あの子も客なので。平等に対価を求められる。

彼女もそれを了承したので問題はない。言葉を控えたせいで何か勘違いをしてしまったかもしれないが。

そのうち徴収されるだろう。彼女もまた虚無の結末がもたらされる。そうなる未来を思い、うっそりと店主は笑う。お茶くみ係の妹が非難の視線を向けてきた。


「酷い人」

「何とでもお言い。それが私よ」


結末確定、ひた走れ。

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