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彼女はどんな願いも叶えるだろう。ただし……

「ここが……?」

「えぇ。客が依頼人として自らの願いを言い、私がそれをあらゆる手段で叶えるの」


当然、代償は必要となるが。しかし代償さえ払えればどんな願いも叶う。それこそ世界を滅亡の運命から少しずらして破滅を免れることも。

対価さえ支払えば文字通り何だって叶う。何の比喩でもなくそのままの意味で、何でも。


「とはいえ、今は営業してないの」


前の店主であった妹から店と店主の地位を継いだだけ。建物は住居として使っているが、店としては使っていない。店に至る道も迷彩魔法で隠してあり、よほどの者でなければたどり着くことはできない。転移魔法もほぼ無効だ。唯一、ヴィトが使う転移魔法だけは突破できる。突破してもよいと店主が許しているからだ。他の人間では絶対に転移魔法を用いてもたどり着けない。


「本来は営業してないのだけど。時々たどり着いちゃう人がいてね、そういう人には仕方なく対応しているの」


対応というのはつまり願いを聞き、対価を受領して願いを叶えることだ。

しっかりと迷彩魔法を張り巡らせて隠しているのにそれを突破せしめた報奨のつもりで応じてやっている。ヴィトだけは転移魔法で飛んでくるので報奨も何もないが。


「……誰かさんはずかずかとまぁ遠慮なく……」

「イイじゃん」

「遠慮を覚えなさいな」


さて、と知識の補足を済ませ、本題に入るとしよう。

ここに来たということは、つまり何か叶えたい願いがあるのだろう。ヴィトは古い知人だが、依頼人として対応しよう。このソファに座る限りは店主と客だ。


「それで、叶えたいことは何?」

「ヴァイス高等魔法院で起きてる連続行方不明事件の犯人を教えてほしいナ」


犯人を知りたい。その願いを叶えてもらいにここに来た。

不可能ではないだろう。完全滅亡した世界を書き換えて『なかったこと』にしたことに比べれば簡単なことだ。


「そんなことでいいの?」

「ダイジなコトだヨ。ボクのトモダチが不安がってるんだからネ」

「そう」


ならばその友人に報いましょう。ただし、願いを叶えるには代償が必要だ。必要な対価が払えなければ願いは叶わない。


「対価は?」

「友人のためと言うならそうね、友人を喪ってもらいましょうか」


ただしそれに指定されるものは『トモダチのために』と心を砕いた友人(カンナ)のことではない。他の誰かだ。カンナ以外の友人、あるいは親しい知人の喪失が代償だ。友人(カンナ)のために友人(誰か)を喪ってもらおう。


「イイヨ」

「あら。あっさりなのね」


身内に甘いヴィトのことだ。多少は怯むかと思ったのだが。あっさりと誰かも知れぬ首を対価に差し出すじゃないか。

意外だと口にする店主へ、ヴィトはなんてことのないように言う。


「ボクに人並みの感情があると思ってるノ?」


そんなもの、3000年の孤独の間に擦り切れてしまった。今のこの人懐っこい性格は『自分は確かこういう性格だった』という認知を元にしたロールプレイだ。ロールプレイをやめれば無感情の無感慨の素がそこにある。

友人を喪失すると言われても、そう、の無味乾燥な一言で終わってしまう。交流の間で形成された愛着はあるが、惜しむ気持ちはそれほどない。

だってどうせ、どんな素晴らしい友人だろうが遅かれ早かれ自分を置いて死ぬのだから。今死のうが数十年後に死のうが多少の時間の差があるだけで変わらない。


「わかったわ。じゃぁ、そちらの子もいいかしら?」

「私ですか? はい、もちろん」


代償がそうで、それをヴィトが了承したのなら自分に挟む口はないだろう。これは2人のやり取りだ。

そう認識しているカンナが頷く。誰が代償に選ばれても文句を言う権利はないし、指し示された犯人が誰であっても何を言う筋合いもない。そういう話の諒解だろうと理解して、はい、と了解する。


「……わかったわ」


叶えましょう、と。彼女は言った。

少し席を外すと言い残してソファを立ち、奥の部屋へと引っ込む。ややあって彼女が箱を抱えて戻ってくる。

漆を塗り込めたように黒い重箱だ。箱の上部には持ち運びがしやすいよう取っ手が付けられており、そこに鐘が結わえつけられている。

その箱をテーブルの上に置き、封として結ばれていた朱と紺の紐を解く。蓋を開けた彼女の指が滑って詰め物代わりの丸めた懐紙を取り除いた。

そこにあったのは手鏡だ。楕円の下部に持ち手がついている典型的な形のものが伏せられた状態で箱に収められている。


「氷神の鏡よ。これを使えば貴方の願いは叶うわ」


真実を司る氷神の加護が施された鏡だ。その鏡は対面する者の姿ではなく知りたい事柄についての真実を映す。ヴァイス高等魔法院で起きている連続行方不明事件の犯人を知りたいと念じながら鏡を覗けばそこに犯人が映るというわけだ。

そこに映るものはあらゆる偽証も偽装も偽造もない。真実を司る氷神が提示する事実なのだからどんな突拍子もないことでも証拠がなくても『そう』だ。それを疑うことは氷が冷たいかどうかを疑うことと同じだ。


「カンタンなんだネ。もっとこう、儀式とかあると思ったのにナ」

「あら。あっさり対価を払ったくせにあっさりした手段に文句を言うの?」


さっと簡単に対価を払ったので、それに合わせてさっと簡単にできる手段を提供しただけだ。その鏡を見て真実に至るといい。そこに映る人物が犯人だ。


「ハイハイ。さぁて、と……」


さて、誰が犯人なのやら。

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