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それの作り方

「う、わ……」


突風に身を晒されている感覚がする。実際に風が吹いているわけではない。だが、感覚としてそう知覚する。

身を切り裂くような鋭い熱風。これがナツメの魔力なのだろうと不思議な感覚を抱きながらベルダーコーデックスに手を添える。


この熱の濁流を川に流し込むイメージで。ともすれば自身すら焼き焦がしかねない苛烈な炎の暴れ馬に手綱をかけて乗りこなすように、受け渡された魔力をベルダーコーデックスに注ぎ込む。

できたじゃないかと称賛するナツメの声を遠くに聞きながら、真実の書に問う。


破壊神メタノイア。その製造方法を。


読み解く。映像が頭の中に流れ込んでくる。

きました、と視線でナツメに合図を送ると、彼は別の図柄のプレートを軽く掲げた。


「――"密告者による背反"。……準備完了だ。読んでくれ」

「では」


読みます。


***


それは過去の一幕。


人が必要であった。"破壊神"には膨大な人間が必要であった。神殺しの兵器には何十、何百、何千、何万もの"いのち"を贄にしなければならなかった。

神を殺すために作られた生体兵器の稼働にはただひたすら数が求められていた。


そのために。


食べた。



「問題がなさそうなら追加だっけ? どれくらい? 残り全部(全員)?」


食べた。食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた食べた。


「食い汚いのは感心しないよ」


延々と食べ続けた。

質は問わない。大人であろうが子供であろうが男であろうが女であろうが王であろうが乞食であろうが英雄であろうが悪党であろうが皆等しいものであった。


深淵に君臨するそれはひたすら"いのち"を食った。

数にして万を越え、桁が増える寸前まで。与えられるままに食い、文字通り平らげた。


食う。食う。食う。"いのち"を食らい尽くす。


平らげるという言葉は優秀だ。それ自身が食べるという意味を持ち、そして食べた後に何も残らないことまで表現している。

そんな文学的な感想までも破壊神は食っていく。


無限の命を食らい、紡ぎ、力を得た。

そうして費やされた"いのち"の果てに生まれたそれ。


「博士……あの、"あれ"はいったい何ですか? 私たちは"何"を作ったんですか……?」

「何を言っている。あれは神殺しの兵器だ。……そう、ついに我々はこの次元に至ったのだ!」


喜ぶことこそあれ、恐れることはない。いや、恐れるのも無理はないかもしれない。それは恐怖でなく畏怖だ。神を殺す不遜な兵器への。


――なんと美しく醜い神殺しの兵器だろう。


***


真実の断片という名の映像はそこで途切れていた。


「ナツメ先輩……これって…………」

「あぁ。……君に見せてはならないものだったな」


断片的な映像は不鮮明で、声にもノイズがかかっていた。真実を読み解く前に揃えるべき情報が足りなかったせいだ。

だがそれでよかった。もし情報が揃っていて映像が鮮明になっていれば、きっとまともな精神じゃ耐えられない光景が広がっていただろう。

"いのち"を食べた。シンプルなその文字列が意味する行為と、その行為に付随する光景。間違いなくおぞましいものだ。100年少々生きて多少のことでは動じない自分ならともかく、カンナのような少女にはつらすぎる。


「すまない。無理をさせた」

「大丈夫です。びっくりはしましたけど……」


世界の真実を読み解く神秘学者を目指す者として多少の精神訓練は受けている。神秘学者は新たに発見された理論によって動揺しないように、乱れた心を落ち着けるための術を学んでいる。

おぞましい光景を見ても、今までの常識を覆す驚愕の真実が提示されても、それによって混乱することなく落ち着いて目の前のことを受け入れるように訓練している。

平たく言えば精神を図太く鍛えているのだ。驚きはしたがそれは一過性のもの。数度深呼吸をすれば落ち着く。それはそれとして断片的に見えてしまった光景はおぞましくて気持ち悪いが。


大事なのは見えた光景よりも、その光景が意味することだ。見えたおぞましい光景は忘れて、内包する真実だけを拾い上げて記憶しよう。

つとめて心を落ち着けて先程見えた真実を拾い上げる。破壊神メタノイアの製造方法について、それはもうはっきりと提示されていた。


破壊神メタノイアは人間を生贄に作られている、と。


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